談笑しながら街を歩いていると、不意にアクロの言葉が切れて、視線が何かを追うように動いた。不思議に思ってそちらを見れば、小さな女の子が走っていくのが目に入る。短い赤銅色の髪が少女の動きに合わせて揺れていて、芸術の都で彼が可愛いと言ったのもあんな子だったなと思い出す。
店や木や花がたくさん並んでいる、色とりどりの大通り。その鮮やかだったはずの色彩が一瞬で薄れたような気がして、胸の奥が鈍く痛んだ。
「……アクロさん」
「あ、悪ィ。えっと、そう、さっきの店な」
「あの、聞いてもいいですか」
「ん?」
ちらりとアクロを見上げてから、デコはすぐに地面に視線を落とす。彼に尋ねたいことはあるけれど、聞くのは怖いような気もする。自分の鼓動が耳に届くくらい大きく鳴って、心臓を掴まれたような恐怖に強く手を握りしめた。
アクロが不思議そうな視線を向けてくる。知りたい、でも怖い、――けれど、聞きたい。
「……アクロさんって、年下が好きなんですよね」
「おお、そうだな」
確認しなくても知っている、彼の好みが本当に小さな可愛い子だという事くらい。聞きたいのはそれではないのだけれど、続けようと口を開いたら心臓がさらに速く脈打った。
目を強く閉じ、意を決してデコは声を絞り出す。
「じゃあ! 何歳までなら、……」
声が震えかけて、言いかけた言葉を途中で飲みこんだ。アクロは15、自分は13。年下には違いないけれど、彼が目を引かれた女の子たちほど離れているわけではない。
――いくつまでが好みなんですか。自分はあなたの視界に、入れますか?
(……なんて、ばかみたいだ)
足が止まる。どうしてこんなことを言ってしまったんだろう、聞いたって仕方がないことくらい分かってるのに。自分よりずっと年下の子が好きなのかもしれないし、もし範囲に入れたとしても、彼がこちらを見てくれるとは限らない。対象範囲なんて聞いてどうするんだと心がしぼみ、涙が滲みそうになった。
「デコ」
名を呼ばれて思わず顔を上げたら、額に何か柔らかいものが触れた。一瞬理解が追い付かず、デコはぽかんとしながら目をしばたく。あと少しで鼻がぶつかりそうな至近距離にアクロの顔があって、空色の瞳がこちらを優しく見つめている。数秒の空白のあとで額に唇を落とされたのだということにようやく思いいたって、全身の血が顔に上ってくるのを感じた。
「お前なら、何歳でもいいぞ」
アクロがにこりと笑って言うので、デコは言葉を失った。
2009.12.27 // ……、本当に?