世界を壊したい理由なんてただの衝動だ。クラウンは昔から、壊すことが好きだった。せっせと積み木を積み上げる、その行為はクラウンにとって、何かを完成させるためではなく最後に崩すためのものだった。高く美しく作り上げれば作り上げるほど、完成されていればいるほど、壊す瞬間の恍惚感は大きくなる。在ったものの残骸の混沌は、世界の何より美しい。
他人の作品を見ても破壊衝動が胸の内を焼いた。何を見てもそうだ、これくらい自分だって作れる――どんな作品を見たって感動というものを覚えた試しがなかった。ヴルーが何度か時間鑑賞≪ライフ・ムービー≫を見せてくれたけれど、心を揺さぶられたことはない。咲いた花々を同じ力で枯らして見せると、ヴルーはただ黙って苦笑した。その笑みに苛立ちを覚えた理由を、クラウンは自分でも判らずにいる。
彼が好きだと言ったものを片っ端から破壊してもみたけれど、ヴルーはやはり無言で笑うだけだった。なぜと問うた自分に、大人だからねと彼は言った。つまらない、とクラウンは思った。いつも作り物のような表情を浮かべる彼の、残念そうな顔が見たかったのに。彼を傷つけてみたかった――もしかしたらそれには成功していたのかもしれないが、目で見てわかるような反応が欲しかったのだ。
それでも彼がもう少し待てと言ったから、世界への破壊衝動をギリギリのところで抑えてきた。だって我慢する代わりに、彼はどんな“お願い”も聞いてくれたから――ヴルーが側にいてくれるなら、もう少しこの世界で遊んでみてもいいかと思ったのだ。
けれど、
「アクロ君を……呼び戻す。彼を生き返らせると言ったんだよ」
彼が自分に背を向けたから、もういい、と思った。戻っておいでという言葉を黙殺されたことが心底腹立たしかったのだ。かつてないほどの苛立ちは、そのまま破壊衝動に変わる。
どうしてザコの言霊使いなんか庇い、やっと死んだはずのアクロを蘇らせようなんてする。ヴルーは自分のことだけ見ていればいいのだ、自分のためにだけ在ればいい。そうしたらこのつまらない世界も少しはマシに思えるのに。
「なあアクロ。オレのスキル……教えてやろーか」
アクロの顔を見ながら、クラウンはふんと鼻を鳴らす。元々殺したいと思っていたが、ヴルーが彼を救ったという事実が憎らしさをさらに増大させていた。しかもヴルーの置き土産が彼に残ったということも気に入らない。スキルを発動させながら、クラウンは心中でヴルーは馬鹿だと毒づいた。
――みんな、みんな壊れてしまえ。
ヴルーのいない世界など、もはや存在する価値もない。
2010.1.3 // それは強い独占欲と嫉妬、それから、