未だ知らない感情

「デコー! ほんとにあいつどこ行った?」
 
マーロン戦後、アクロが森で目を覚ましたとき、デコとスバルの姿はなかった。そのうち帰ってくるだろうとピクルスに請われるまま作品を作っていたらスバルだけが戻ってきて、いつまで経ってもデコの姿が見えない。スバルは知らないと言うし、軽く探してみたが日が暮れても彼は帰ってこなかった。
 
「そんなに心配しなくても、案外アイツの意思で離れていったのかもしれんぞ」
「オメーに何がわかんだよ!!」
 
スバルの言葉を振り切るようにして、デコの名を呼びながら森の中を早足で歩く。彼は黙っていなくなるという性格ではないし、戻って来ないのは帰って来れない理由があるからではないだろうか。例えば落とし穴に落ちて困っているとか、一人で迷って戻れずにいるとか――。
デコがこのまま見つからなかったらどうしようと考える。マーロンという変な分身男と戦って、それっきりになってしまったら。
 
 
――嫌だ。
 
 
アクロは胸のあたりに手を当て、衣服をきつく握った。別に一人でも自分は平気だ、だって元々独りで出て来たし、誰も連れずに旅をする気でいた。だから他人が横にいなくても、自分は生きていける。
 
 
けれど、――嫌だ。
 
 
誰かが隣に居ないのは構わない。けれどデコが隣に居ないのは、嫌だ。
アクロさんと彼が呼んでくれるたび、安心感が心に満ちて自然と笑顔がこぼれる。出会ったばかりで彼の事などほとんど知らないけれど、どうしたら笑ってくれるかだけは知っている。それで十分なのだ、だって笑ってくれたらそれだけでいい。それだけで、自分は。
 
「デコ! 聞こえたら返事しろー!」
 
デコの顔を思い浮かべながら必死で目を走らせる。木々の間を注意深く探して何度も名を呼んだけれど、彼の姿がどうしても見つからない。
どうしてなのだろう、デコが居ないというだけでこんなにも不安になるのは。どうしてなのだろう、こんなにも必死で彼を探してしまうのは。
自分でも理解できずにいるけれどそんな事はどうだっていいから、早く、出て来てくれないか。
半ば祈るような気持ちで、アクロはもう一度彼の名を呼んだ。
 
 
 
 
 
 
 
2009.1.9 // その気持ちの名をまだ知らない