「ねえヴルー、僕のこと愛してる?」
何の脈絡もなく、ただただ唐突に、クラウンはヴルーに訊ねた。聞いた理由は特にない、単純に暇だったからだ。椅子に座っていたヴルーの上に互いの胸を合わせるように乗り、彼を見下ろしてにっこりと笑って見せる。目や口をどう動かせば子供らしく見えるか、クラウンはちゃんと知っているのだ。ヴルーは一瞬面食らったように目を丸くして、それから静かに微笑を広げた。
「そうだね」
「曖昧な肯定じゃなくちゃんと言って」
拗ねてみせると彼は笑みを深くして、クラウンの頭に手を乗せた。髪を梳くように、あやすように撫でられ、子供扱いするなよと思ったけれど、悪い気はしなかったから何も言わずに甘受した。ヴルーの首に腕を回し、彼の首の後ろで手を組む。足の上に乗ってこうしていれば彼は逃げられない。逃がさない。
「ヴルー」
「……、私は君が好きだよ」
「そ。じゃあキスしてよ」
淡々とした義務のようなヴルーの告白はさっさと流して、クラウンは己の顔をヴルーのそれに近付ける。額同士が、鼻先がぶつかりそうな距離にまで詰め寄って、クラウンはレンズ越しにヴルーの目を覗き込んだ。これは半ば脅迫だ。
ヴルーの手がクラウンの前髪を優しくかき上げ、まぶたの上にそっと彼の唇が落ちてくる。触れるか触れないかという微妙なそれは大人が子供にする親愛のキスのようで、「子供扱いしないでよ」とクラウンは今度こそ口にした。
ヴルーは何も言わずに口元を緩めただけだったけれど、その笑顔に、“いいや子供だよ”と言われた気がした。
2010.1.10 // もっともっと深く愛して。