[隠れ甘々なふたりに7つのお題2(配布元:TV様)]より。
……、目の前の二人がラブラブすぎて困る。
「モカ、こんな管見てるの気持ち悪いだろ。離れてていいぞ」
「嫌よ! やっと会えたんだもん」
石の壁や床がひんやりと冷たい、アート協会の地下牢。モカの想い人を知りショックのあまり気絶したスバルが目を覚ますと、もうアクロとデコの姿はなかった。レオンジを解放するため上に向かった二人を追うことはせず、スバルは牢の前に留まっている。レオンジが動けない上にモカは戦う力を持たないし、敵の数や配置も何もわからない。今ここに二人を残していくのは不安要素が大きすぎた。そんなわけで周りの様子を伺いながら二人の話を聞いているのだが。
「オレが作ったトラップ、引っかからなかったか?」
「えっ…………も、もちろんよ! 当たり前じゃない」
「ほう、じゃあキーボードの床はどうやって抜けた?」
「それは、ラの音から――」
「間違えてるぞ。ったく、昔教えてやったろ。お前は昔から……そうだ前も彫刻刀で」
「スス、ストップ! そんなこと思い出さないでよ! それを言うならあなただって」
完全に二人の世界が出来上がっていて、非常に居たたまれない。
「あっ……ごめんなさいスバル君、分からないわよね」
時々モカが変に気を使ってくれるだけに、余計に居心地が悪かった。
自身の血の管に体を貫かれ固定されているレオンジと、その横にじっと座っているモカ。二人が並んでいる姿はある意味異様ではあるが、間に流れる空気は非常に穏やかだ。長年の付き合いのある者同士特有の、遠慮のない打ち解けた雰囲気。さらにそこに恋仲特有の甘ったるさが加わったとなれば、知り合ったばかりのスバルに入り込む隙などない。二人の空気が明るければ明るいほど、スバルの気分は底なし沼に沈んでいく。
モカはあんな男の一体どこがいいというのだろう。じろりとレオンジを睨んだら、彼は得心したようににやりと笑った。
「しかしモカは見ない間に美人に育ったなあ」
「なっ、何を言うのよレオンジ!」
美人だなんてそんな台詞をよく吐けるものだ。自分がその言葉を口にするのには、一生分の勇気を振り絞らなければならないというのに。しかもモカもまんざらではない――むしろ心底喜んでいるのが言霊の形状でわかってしまって、黒く混沌とした何かが腹の底にずしりと溜まるのをスバルは感じた。もう、ここから逃げ出してしまいたい。ていうか泣きたい。
「嘘じゃねえよ。――なあ、スバル?」
「……!」
レオンジが楽しげに笑って、一言。こいつ判って言ってやがる――苛立ちがスバルの額の血管を浮き上がらせる。ピクルスが何事が口走りそうになったのを慌てて押さえ、スバルは顔をわずかに火照らせながら、レオンジを再び睨みつけた。
敵情視察中。判ったのはモカが昔からよくドジを踏んでいたという事と、敵は非常に強大だということだ。
2010.1.6 // 勝算は…………あるのだろうか?