知らないふりはもうできない*

[隠れ甘々なふたりに7つのお題2(配布元:TV様)]より。
 
 
 
 
 
 
アクロとスバルが並ぶ姿を見ていると胸が痛い。
ズキズキと痛む胸を押さえながら、どうしてだろうとデコは内心首をひねった。
 
 
初めに針が突き刺さったように感じたのは、ブラッドと戦った後だ。
 
「起きろと言ってるだろ!」
「……あれ? スバル……?」
 
自分が何度呼んでも起きなかったアクロが、スバルの一声で目を開けた。このまま助からなかったらどうしようという恐怖が心を占めていたデコは本当にホッとしたのだけれど、スバルのおかげだろうかと思うと同時に胸にひどい痛みを覚えた。
その後もスバルがアクロの名を呼んだり声が揃ったりと、仲違いをしている風でいて案外二人は仲がいい――本人たちは認めないだろうが。口喧嘩をしながら前を行く二人を見ていると、ちくりと何かが心を刺した。
アクロとスバルは年のせいか性格か、関係が対等だ。どちらが上ということも下ということもなく、並び立っているように思えた。それに二人とも自分とは比較にならないほど強いし、きっと背中も預け合える。互いに互いの隣が似合うような気がしたのだ。
 
――ちくり。
 
胸が痛い。なぜだろうと思いながらスバルを見る。彼はアクロを見ていた。けれど心に変化はない。次にアクロを見る。彼はスバルに視線を向けていて――
 
 
ちくり、
 
 
胸にまた痛みが生まれた。もう一度スバルに目を向けてみたが、やはり心に針は刺さらない。アクロを見ているとどうしてだか締め付けられるような、体の奥がチリと焦げ付くような気持ちになる。
 
ちくり、ちくり。
 
なぜだろうと考えて、アクロと出会った日を思い出す。初めて自分以外のアーティストと話をして、炎の壁に囲われた区画を解放してもらえた。
その強さに憧れた。でも時々心配になる人で、目が離せなくなった。一緒にいると楽しくて、心が浮き立つような気持ちがした。
そしてまだ出会って間もない自分を助けるためにこんなところまで来てくれたと知ったときは、胸が熱くなって涙がこぼれた。その彼が今はスバルの隣を歩いている。
 
ちくり。
 
どうしてこんなにも心が痛くて苦しいんだろう。自分が弱いから?……きっとそれもある。けれど、それだけでもない気がするのだ。
 
 
「デコ」
 
 
不意にアクロが振り返って心臓が跳ねた。速まる鼓動を押さえながら、はい、と努めて冷静に答える。何ですか?と。
 
「いや、さっきから喋んねーから。殴られたりしたんだろ? 体痛むか?」
「いえっ大丈夫です! アクロさんこそ、平気ですか?」
「ああ」
 
大丈夫ならいいと言ったアクロの笑顔に心が大きく鳴って、目をそらしたいようなずっと見つめていたいような気持ちになる。顔が熱くて、体が熱くてたまらない。熱に浮かされて泣き出してしまいそうになる。
 
 
――ああ、
 
 
唐突に気付く。そうか、自分はこの人に恋をしたのだ、と。
 
 
自分はばかだ。なぜ気付いてしまったんだろう、なぜ胸の痛みの理由を考えてしまったのだろう。急に自覚してから、アクロに視線を向けられない。今度話しかけられたら、どんな返事をすればいい?これからどうやって話しかければいいのだろう?
自分の気持ちの大きさに戸惑う。もうどうしようもないくらい、自分は彼が好きだ。好きで、好きで、好きだ。
 
 
(……気付かなきゃよかった)
 
デコはうつむいて目を伏せる。知ったらもう戻れないではないか。不器用な自分には、気付いてしまったら、知らないふりはもうできない。
 
 
 
 
 
 
 
 
2010.1.6 // どうしたらいいんだろう、好きだなんて伝える度胸も自信もないのに。