[隠れ甘々なふたりに7つのお題(配布元:TV様)]より。
「未だ知らない感情」「知らないふりはもうできない」の続きみたいな感じです。
最近アクロとデコの空気が変だ。
その事に真っ先に気付いたのはスバルだった。言霊が視えてしまう分その理由も一目で理解できてしまい、自分は一体どう対処したものかと反応に困った――今のところ、何も知らないふりしかしていないのだが。
「そろそろお昼ですけど、どこか入りましょうか」
3人で並んで歩いていたとき、不意にデコが言った。ちょうど真ん中に立っていた彼は、言葉と同時にスバルの方を向く。けれどデコの意識は逆のアクロ側に向かっているのがありありと判って、スバルは(なぜそれをオレに言う)と心底げんなりしながら思った。
芸術の都のアーティスト協会を出てからというもの、デコはあまりアクロに視線を向けなくなった。もちろん全く見ないわけではないし意識は常にアクロを注視しているように思うのだが、アクロを見ることから逃げるようにこちらを向くことが多い。ちょうどさっきみたいに。
そしてそんな態度以上に、アクロに向けるデコの言霊の形が、はっきり変わった。出会ったときはまだ友人に向ける“大きな好意”に別の感情が混じった複雑な形状だったのに、最近でははっきり恋心とわかる形状をしている。おそらく自分の気持ちに気付いたのだろう。
「いいな。二人は何食べたい?」
一方アクロはといえばデコとは真逆で、視線をデコに向けていることが多い。多いと言うよりほとんどという言葉の方が正しいかもしれなかった。アクロの視線を追えば9割方デコが見つかる。彼がデコから視線を外すのは、何か面白いものを見つけたときくらいのものだ。
言霊の形状は、彼にしては珍しく曖昧だ。好意であることに違いはないけれど、それが友人に向けるものか想い人に向けるものか判断し難い。ただ彼の目の向く先を見ている限り、アクロがデコに特別な意味で好意を抱いていることは間違いないだろう。本人が自覚していないというだけで。
「ボクは何でも……スバルさんは?」
「旨いもの。少なくとも不味いものと人ごみは嫌だ」
「スバルの希望なんかほっとこうぜ。オレ、ハンバーグ! デコは?」
「えっ、えっと……」
アクロの視線はデコに、デコの視線はスバルに。それが面白くないのかアクロからの視線が痛い。デコが普通にしていてくれればまだマシなのだろうが、小柄な少年は想い人にはやはり視線を向けられないらしい。
(はあ……面倒くさい)
何でもいいからさっさとくっつくか、自分とは何の関わりもないところでやってくれないか――いや、付き合ったとしたらそれはそれで面倒か。スバルは内心ため息をついて二人から視線を外した。外野の気持ちになってくれ。
二人の言霊を軽くつつきながら、モカと話しているときの自分の言霊もこんな風なのだろうかと頭の端で考えて、今すぐ穴を掘って埋まりたい気分になった――言霊遣いが自分だけでよかった。こんなもの他人に見られてはたまらない。まあこの二人の場合、言霊なんて視えなくても外野からは丸わかりではあるのだが。
「ボクは、アクロさんの食べたいものでいいです」
「えー? 希望言えよ」
アクロがデコの肩の近い方に腕を乗せ、デコがわずかにびくりと体を強ばらせた。アクロは気付いているのかいないのか、そのままの体制でデコの顔を覗き込む。デコは逃げ場もなく固まったままだ。気の毒に。いや、案外アレはラッキーなのだろうか?
はあ、とスバルは視線を別の方向に向けながらため息をついた。勝手にしてくれ。
とりあえず、一人ではぐれても構わないだろうか?
2010.1.15 // コレと一緒にいたくはない。