(※かなり暗い話なので負の話が苦手な人はバックターン推奨)
「アクロ」
とクラウンは彼の名を呟いた。遠い昔には自分のものだったはずの名。かつては耳にするたび不思議と心にあたたかいものが訪れていた単語が、今となっては忌々しくて憎々しい。その名を口にするたび内に怒りの炎が燃え上がり、何年も前に生まれた憎しみが当時の何倍もの強さで呼び起こされる。これはクラウンにとって確認作業だ。ああ彼が彼の父親が世界が、憎い。
彼を存在ごと消してしまいたいと思う。生きていることが苦痛だと感じるくらい絶望の闇にたたき落としてやりたいと願う。どんなに手を尽くしても自分が覚えた暗い感情の10分の1も与えられないのだろうし自分が失ったものの10分の1も奪えないのだろうけれども、可能な限りの闇を与えて彼の希望を奪ってやりたい。彼の光なんか陰ればいいのだ。自分と同じ処まで、堕ちてこい。
クラウンは奥歯を噛み締め、飽和して溢れ出そうとしている怒りを乗せて、近くにあった椅子を蹴り飛ばした。それが派手な音を立てて転がっても、内にある熱情も衝動も収まらない。
全部消えればいいんだとクラウンは強く手を握りしめながら思う。憎むべき対象を彼を消して世界をもっと壊して消して消して消して消して全てを滅して壊して壊して消し去って、
何もかもが無くなったなら
内にあるこの処理しきれない複雑な感情も、綺麗に消え去ってくれるのだろうか。
時々意味もなく泣き出してしまいそうになるのはなぜだろう。無性に何かを叫び出したくなるのはどうしてなのだろう――何を叫べばいいのかも解らないけれど、理由もなく走りだしたくなる。同時にその場にうずくまりそうになる。時折自分でも解らない感情が胸の内に渦巻いて、飽和しきった心が思考を停止させるのだ。
周りに当たり散らすことでしか、壊すことでしか気持ちを処理できない。他にどうしようもなかった。何をすれば、どうすればいいのか解らない。ただ確かなことが一つだけあるとすれば、それは内にある多くの感情の中の一つが憎しみであるということ。それだけが確かだから、それだけを片付ける。感情を力に乗せることで。もっと強く憎むことで。
時間だけは何年も過ぎたけれど、心だけはあの瞬間から動かない。動けない。暗い蔦のような何かに絡め捕られたまま、ずっと身動きが取れずにいる。
「アクロ」
動けなくなったらそう呟いて、確認。自分が今、すべきこと。
さて次はどうしてやろうかと考えながら、クラウンは倒れた椅子の上に腰を下ろした。
2010.2.24 // 見上げる空は、いつもいつでも灰色だ
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もしクラウンがこういう心境であの行動を取っているのであれば、ほんと誰か止めてやって…!!!!!!(><。)って思います。