黄金の林檎。それは、結婚式に呼ばれなかった、エレスからの贈り物。
「なぁ少年、黄金の林檎って知ってるか?」
「何だそれ?」
サンが突然もちかけた質問に、ミカゼは首を傾げた。
彼は、先ほど町中で出会ったばかりのアクアを師匠と呼ぶ白服の男。とりあえず互いに話を聞こうということになり、立ち話も何だからと場所を移すことになった。
アクアとリュシカ、ミカゼとサンというペアが自然とでき、何となく2列で歩いている。
前を歩くのは女性陣で、何だかミカゼにはよく分からない女同士の話題で仲良さ気に盛り上がっているようだった。
「神話なんだがな。海の女神ティティスとペレウスの結婚式が行われた時に、神たちは皆集められたんだが、1人だけ呼ばれなかった女神がいた。争いの神エレスだ。怒った彼女はパーティに1つ贈り物を届ける。「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎。自分の物だと名乗りを上げたのはヘラ・アフロディテ・アテナの3女神で、それはもう熾烈な争いが繰り広げられたそうだ」
「ふーん、それで?」
どうして女神達がそこまで1つの林檎をを求めて争ったのかよく分からない。金は金だし林檎は林檎だ。金の、というと見つからないだろうが林檎ならいくらでもあるじゃないか。
もともと宝石などの美術品に興味のないミカゼには理解しがたい話だ。五大石を見せてもらったときも、綺麗な石だとは思ったけれどそれ以上の感想は沸かなかった。
「察しが悪いな少年。お前なら前を歩く師匠とお譲ちゃん、どっちにやる?」
「は?」
ミカゼは眉を寄せる。
なんでまた、そんな話になるのだ。
「どっちでもいいじゃねえか」
「何言ってる、3人で旅してたんだろ。両手に花だぞ、両手に花。健全な青少年たちに何のときめきもなかったってのか? そりゃあいかん、青春せよ少年よ」
そんなこと言われても。
そりゃミカゼとて健全な青少年であることは否定しない。しかしだからといって。
サンはにやにや笑みを浮かべてミカゼの肩を叩く。
「まぁいいじゃないか、ほんの冗談なんだ。軽ーい気持ちで答えてくれれば。少年から見てどっちが美人だ?」
「んーどっちって言われてもなあ」
リュシカは結構可愛いし優しいいい子だし。
アクアはアクアであれでいいとこあるし。
どっちかを選べと言われてもな。
2人とも美人よりも可愛らしいという形容詞が合っていて、美人な方を選べと言われると難しい。
隣を歩いていたサンが突然立ち止まったので、つられてミカゼも立ち止まる。
見上げると苦り切った表情で前を見ていて、ミカゼもそっちに視線を移動させてげっと小さく声を上げてしまった。
いつの間にか前を歩いていたアクアとリュシカが振り返ってこちらを見ていたのだ。
今のサンとの会話は聞こえていたのだろうか。
後ろめたいことがあるわけではないので聞かれても構わないのだが、
「もちろんあたしだよねぇミカゼ?」
「ミカゼさん、あの……あたしもそれ欲しいです」
2人からは耐えがたいプレッシャーを感じた。
張り付いた笑顔の上を嫌な汗が流れていく。
アクアとリュシカが顔を見合わせてにらみ合う。
「どうしてあんたが欲しがるんだい。美しいってのはね、もっと時を重ねた魅力なんだよ」
「でもアクアさんは外見が全然成長してないじゃないですか。それに、100年っていったらおばあさんですょ。年をとりすぎて規格外です規格外」
「なんだとー!」
つーかお前らさっきまで仲良く喋ってたんじゃないのかよ。
助けを求めてサンを見たが、諸悪の根元は我知らず顔で明後日の方向を見ている。おい、せめて助けてくれよ。
「まあ、どっちでもいいってことで……」
と逃げようとしたら、
「よくない」
「よくありません」
2人から同時に言われた。
「ミカゼ、どっちなんだい」
「どっちなんですか」
……どっちを選んでも片方に怒られそうなんだけど。
っていうかどっちだっていいじゃないか。
俺にどうしろって言うんだ。
2人の迫力に押し潰されそうな逃げ場のない状況に、ミカゼは真剣に途方に暮れた。
ほんの小さな冗談であっても、黄金の林檎は問題を引き起こすらしい。
争いの女神エレスの力、侮りがたし。
2004.11.29 // どっちでもいいから、巻き込まないでくれ。
ATP好きに15のお題 No.1