静かな森。風で木々がこすれる音と、微かな鳥の声だけしかしない。
危険など何も無い。そんな、天然の結界がそこにはある。
「賞金稼ぎでも何でもいいから、誰か来ないかねぇー」
などと物騒な事を呟いてみる。
声の主、アクアは周りを見渡した。
見慣れた森。何年も何十年も見てきた森の姿がそこにはある。
「あーあー暇だー。何か面白い事無いかなー?」
その声は空気に溶けて跡形も無く消えた。返事など無い。
返答がないのは、どうしようもなくつまらない。
本当は三人。
けれど昼はそれぞれ一人。
夜になったって、会えるとは限らない。
夢を見ない限りは。
――寂しい、と。
思った事は、一度や二度ではなく。
そんな事を、思う資格など無いけれど。
ふと上を見上げる。
空高くを、白い鳥が優雅に飛んで行った。
真っ白な羽が空に映えて美しい。
風がそれをさらに高みへと送った。
どこまでも高く遠くに。
どこまでも真っ直ぐに。
あのように。
あんな風に飛べたら。
「何考えているんだろうねあたしは……」
暇だからだ。
暇だからこんな事を考えるんだろう。
一日という時間は、何かを為すにはあまりに短いが、持て余すにはあまりに永い。
それが数日数週数年。
気の遠くなる時を過ごしてきた。
一体いつまで、立ち止まっていれば良いのだろう。
一体いつまで、この大罪を背負えば良いのだろう。
多分自分たちは待っている。再び歩き出すその時を。
手持ち無沙汰になって、さっき採ってきたゴーラの木の実をひょいと投げる。
何よりも硬い殻をもつ木の実だ。
これを素手で割る人間など、見た事が無い。
いるとしたら、そいつは化け物か何かだ。
「――ん?」
声がする。小屋の方からだ。
誰か、戸口の前に居る。
「ごめんください。西の村より参った者ですが」
少年だ。黒い髪を後ろで一つに結んでいる。荷物を後ろに背負い、旅装束のようなものを着ている。
――面白い。
アクアの口元がうっすらとつり上がった。
「すみません、誰かいらっしゃいませんか! 至急お目にかかりたいのですが――」
「ドンドン叩くな!」
ゴーラの木の実を再び投げる。今度は前方――少年に向けて。
それは弧を描き、しっかりと少年の後頭部にヒットした。
「戸が壊れるでしょ。もうボロくなってきてんだから」
ゆっくりと前に進み、跳ね返ってきた木の実をしっかり右でキャッチする。
少年が頭を押さえながら振り返った。
「なんか用?」
少年には判らぬ程度に、アクアは口の端をつりあげた。
少なくとも今日は。
退屈せずに済みそうだ。
2002.12.15 // 少しは楽しませておくれよね。