トランダの町から少し離れた所にある、小さな小屋。生活のスペースがギリギリの範囲で作られた粗末なもので、壁にあちこちひびが入ってきているが、住人たちは大して気にしていない。そんな小屋で、彼らは暮らしている。
「すまない、待たせたな」
一つしかない扉が開く。入ってきた男に気づいて、今まで話していた二人は本を閉じた。
「全然待ってないっす」
「心理テストで遊んでましたから」
二人はヒューとビンズ。そして入ってきたのがクライムだ。三人は小さな盗賊団として過ごしている。弱小として名高いが、今大きな仕事の計画を練っている最中だった。
「そうだ。クライムさんも、心理テストとかやってみません?」
髪を逆立てた青年が言う。手には、閉じたばかりの本を持っていた。表紙には『ドキドキ☆心理テスト』とある。巷で噂のベストセラーだ。
「……? 何だそれは」
「精神、つまり心の中を覗いてみるテストっす。質問に答えて測定するんですよ」
ビンズも乗り気のようで、楽しそうに言った。
二人の楽しそうな姿を見て、断るような性格ではない。クライムは頷いて、傍の椅子に腰を下ろした。
「では質問です。夜、帰り道のこと。歩いていると、角の所から一人の人物が犬の散歩をして、こちらに向かってきました。その人は何歳でしたか? また、特徴を述べてください」
クライムは想像をめぐらせてみる。
街灯の明かりの下、犬の散歩を一人でする人物。
「五十五歳で、会社に勤めるサラリーマンだ」
毎夜の散歩が趣味なのだろう。夜に散歩するという話はあまり聞かない。
というか、本当は理由など無くただの直感だ。
この答えに、ヒューとビンズは顔を見合す。
「五十五、っすか……?」
冷や汗を流しながら、ヒューが言った。
口元が嫌な形に引きつっている。
「それ、精神年齢ですけど」
精神年齢、五十五歳。
実年齢の倍もある。
どこかで仏壇の鐘が鳴った。
隙間から入ってくる空気が夜の訪れを告げている。
「い、いやホラ。精神なんて一つのテストじゃ測れないっすよ!」
慌ててビンズが言い、パラパラと本をめくった。
まだ新しいそれが音を立てながらページを重ねていく。
「もっとちゃんと測るっす。第一問――」
質問数、計三十個。
かなり細かいテストである。きちんとしたテストであれば、十分に分析できるはずである。
――結果。
「『あなたの精神年齢は五十一歳です。実際の年齢よりかなり大人で、周りの人からもよいお父さん役として親しまれていることでしょう。あなたの精神年齢は完全に『中年』です。それどころか『初老』の兆しが見え始めています。人生経験が豊富なあなたは頼りになる存在です。しかし、精神年齢はもう少し若い方が人生は楽しいと思いますよ』だ、そうです……」
四歳下がったものの、大して変化は無い。
再び仏壇の鐘の音が鳴った。
「……俺は二十八だ……」
これではおっさんではないか。
中年? 中年だと? 初老の兆しだと?
「く、クライムさん……?」
表情に大した変化は見られなかったが、手がわなわなと震えていた。ヒューが恐る恐る声をかける。
だが、クライムの瞳は二人を見ていなかった。
「俺は二十八だ――――――ッ!!」
「くくくクライムさん!?」
叫びながら、精神五十五歳で実年齢二十七歳の男は、ドアに突進した。あっけにとられながら、二人は夜の闇に消えていく、哀愁の漂う男の背中を見つめていた。
その後、計画していた大きな仕事で、
「あんたもだよ、おっさん」
「俺は二十八だ!!」
彼の古傷を、ある破壊少女が掘り返したのは言うまでもない史実である。
2003.4.20 // 誰が中年だ、誰が!
ATP好きに15のお題 No.7 哀愁