姿

　魔法大会の１回戦が終わった。
　いきなりのトップバッターでドキドキしたけれど、勝つ自信はあった。
　この日のために研究して作ったパンは今のリュシカにできる最高のものだったから。
　
「リュシカ、おめでとう！」
「ありがとうございますー。２人も頑張ってくださいね！」
　
　観客席にいたティトォとミカゼのところへ戻ると、２人とも嬉しそうに出迎えてくれた。
　照れ臭かったけれどそれが嬉しくて、リュシカはえへへと笑う。
　２人のそばに腰を下ろして、大会のステージに目を向けた。
　
　
　ステージでは別の試合が始まっている。
　２人の男性が剣を競っているらしかったが、試合というよりダンスみたいだった。
　ティトォが言うには剣舞という舞で、どちらが強いかではなくどちらが美しく踊れるかを競っているらしい。
　
　舞というだけあってその動きは美しい。
　時には速く、時にはゆるやかに。
　体も手も、それから剣も、流れるように揺れ動く。
　
　
「そういえばリュシカ、よくぼくらがここにいるって分かったね」
「え？　結構すぐ分かりましたけど」
　
　第１試合だったので、ティトォたちと観戦する場所を決めることはできなかった。
　待ち合わせしたわけでもないから、この場所は試合が始まった時には知らなかったのだ。
　
　
　けれど、勝負が終わって。
　観客席を見渡した時に、２人の姿を見つけたのだ。
　――いやもっと正確に言うならば。
　
　
「……ティトォさん、目立ってましたから」
「ミカゼじゃなくてぼく！？」
「ってコラどういう意味だ」
「え、待って。ぼく何もしてないよ！？」
「無視かおい」
　
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」
　あわてて否定すると、ティトォはきょとんと目を丸くする。
「多分、普通の人から見たら別に目立ってないと思います」
「そう……なの？」
　
　
　目立っていたという言い方がおかしかったのかもしれない。
　けれど、リュシカはすぐに見つけることができた。
　
　
　どんなに人が多くても。
　彼の姿ならきっと探し出せる。
　
　
「じゃあどういう意味？」
「……内緒です」
　
　
　口に人差し指を当てて、リュシカは微笑んだ。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
2004.11.9 // 教えて、あげない。

抽象名詞で10題 No.9 姿