立ち寄った街でおいしいパン屋を見つけた。
 サクサクの外側に、ふっくらした内側。
 ほんのりとバターの味が絶妙で、小麦の甘みがあって、焼きたてだともうほっぺたが落ちそうだ。
 
 思わず2つ買ってしまってから、リュシカはしまったと思った。
 今はティトォとアクアが入れ替わり、ミカゼが加わった3人で旅をしている。
 1人で2つは多いし、だからといって3人で食べるには少ない。
 
 
 ――またやっちゃった。
 
 はあ、とリュシカはため息をついた。
 はじめに会ったのがティトォで、しばらく2人だったから。
 何かおいしい物を見つけた時は2つ買って2人で食べたし、おもしろいものを見つけたら2人で見た。
 それが染み付いてしまって、なかなか抜けない。
 
 これで何度目だろうと思ってしまうほど失敗した回数は多い。
 だんだんどうしていないのだと、引っ込んでしまったティトォに文句すら言いたくなってくる。
 
 もう1つ買って宿に戻ろうと引き返そうとしたところで、目がサーカスのテントをとらえた。
 ピエロや踊り子らしき人達が散らしを配って呼び込みをしている。
 カラフルな服装とテントに、おもしろそうと胸がわくわくしてくる。
 じゃあティトォを誘って――
 
 
「……いないんだっけ」
 
 ぽつりと呟く。
 今日はもう2回目だ。
 いないということを頭はちゃんと分かっている。
 分かっているのだけれど、一緒にと思ってしまう気持ちは止まらない。
 
 宿でもつい目が探してしまう。
 すぐにはっと気づいてやめるけれども、ぼおっとするとまた探し始めてしまう。
 
 
 ――会いたい。
 
 
 一緒においしいパンを食べて。
 一緒にサーカスを見て。
 それから。
 
 
 ――声が、聞きたい。
 
 
 リュシカは逃げるようにくるりと向きを変えて、宿の方へと走りだした。
 楽しそうなテント。
 見ているだけで楽しくなってくるから、だから、これ以上見ていたくなかった。
 
 持っていたパンも、「お土産です」とアクアとミカゼに渡してしまった。
 おいしかったから。
 おいしくて、彼にも食べてほしかったから。
 
 彼はいないのだということを、思い知らされるみたいで嫌だった。
 
 
 死んだわけではないし、今はただアクアの中にいるだけで、またいつか会えるはずだ。
 でもどちらにしても、今この場にいないということに変わりはない。
 
 一緒に食べたいものも。
 一緒に見たいものも。
 話したいことも。
 
 
 ある、のに。
 
 
「ティトォさんのばか……」
 
 
 
 
 あなたが、いない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2004.10.14 // …さみしい。
 
抽象名詞で10題 No.1 声