金に光る懐中時計。
家の柱時計よりずっと小さくて、耳を寄せると聞こえる規則的な音が、子供の頃の自分にはやけに魅力的に思えた。
一目見るなり「欲しい」と言った自分に、「お前が一人前になったらな」と父は笑った。
今すぐ欲しいんだとごねてみても、父は取り合ってはくれず。
その時はむくれたけれど、別に本気で欲しかったわけでもなかったから、三日も経てば忘れてしまった。
小さい頃の些細なやりとりを思い出したのは、アレンとグレンシールが城に来た時だ。
父からの預かり物だと言って、彼らは自分にそれをくれた。
細かい傷がいくつもついた、使い古した時計。
最初は何だこれと首を傾げたけれど、添えられていた1枚の手紙を読んでようやく思い出した。
「約束通り、お前にやろう」
と、たった一言。
裏返しても透かしても本当にそれだけで、なんだか父らしいと思った。
ただ普段と違っていたのは、やけに文字が丁寧だったこと。
いつも父がくれる手紙は走り書きのメモみたいだったのに、あの手紙だけは、相変わらず短かったけれど、時間をかけて書いてくれたのだ。
一人前になったらなと、かつて父は言った。
認めてくれたんだと思ったらとても嬉しかった。
けれどそれ以上に、
あんな子供のわがままと約束を、言った側はすぐに忘れてしまったことを、十年もの間覚えていてくれたことが、たまらなく嬉しかったんだ。
09.03.01 / コットマン