「なあなあ、テッドの夢って何だ?」
「は?」
空は茜色に染まり、そろそろ帰り支度を始める時刻だった。グレッグミンスターの街角は夕飯の買い物客で賑わい、たくさんの声が聞こえてくる。今日も一日テッドと遊びまわって気分は上々。ふと思い浮かんだことを口にすると、テッドはやれやれと息を吐いた。
「相変わらずお前は話題が飛ぶよなあ」
「いいじゃねえか別に。で、何?」
「……さあねえ」
「何だよ隠すなよ! たまには夢を語り合おうぜ親友!」
肩をばしんと叩いたら、テッドは困ったようにこちらを見た。それから真っ赤な空に視線を移し、飛び去っていく鳥の姿を目で追う。その目が、ふと。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、遠くなったような気が、した。
「そうさねえ、“大人になること”かな?」
「……は? あれだぞ、夜に見る夢の話なんかしてねえぞ?」
「はは、分かってるって」
「意味が分かんねえ。それが夢?」
「ああ」
夢というのは大人になったらどうしたいとかどうなりたいとか、そういうものだと思うのだが、一体どういう意味だろう。リュウは首を傾げたが、さっきテッドが見せた瞳に、なんとなく聞いてはいけないような気がして何も言わなかった。
「んで、お前は?」
けれどテッドがこちらを見て笑ったので、リュウもそれに笑顔を返した。いつもと同じ明るい笑顔。きっとさっきのは気のせいだったのだろう。特に何も思いつかなかっただけかもしれない。
「俺? 俺はな――!」
――ごめん。もしあの時、ソウルイーターのことを知っていたら、こんなこと絶対に聞かなかったのに。
後悔しても、もう遅いのだけれど。
「ふと思い出す10の記憶」――01 何気ない言葉のナイフを投げた記憶
2006.9.5