誕生日

「お誕生日はいつですか?」
 
 
新しい誰かが同盟軍の仲間になるたびにサキがそう尋ねるのを、リュウは幾度も聞いた。相手の過去には何も触れないけれど、名前と誕生日だけは必ず訊く。しかも誕生日はしっかりその場でメモまでしていた。
 
 
「確か今日お誕生日でしたよね? おめでとうございまーす!」
 
 
サキが誰かにそう言うのもほとんど毎日のように聞いている気がする。しかも律儀に相手に会いに行って祝うのだから、本当にマメな奴だなあと何度感心したか分からない。
 
 
 
「お前さあ、誕生日って全員分覚えてんの?」
 
ずっと不思議だったことを、たまたま話が途切れたときに聞いてみた。サキは「いや、全員までは覚えられてないんですけど……」と申し訳なさそうに苦笑する。
 
「なに、じゃあ毎朝メモ見て確認してんのか?」
「ええと、まあそんな感じですね」
「ほんっとマメだな……」
 
 
誕生日なんて大人になればなるほど形式的なものでしかなくなっていく。リュウだってグレミオたちが祝ってくれるから思い出すけれど、それがなければきっと当日が来ても忘れている。
 
「マメっていうか、ぼくは単に――」
 
サキはいったんそこで言葉を切ると、ちょっと待っててくださいねと言い置いて部屋に戻って行った。そして取ってきたのは数年前のカレンダーだ。小さくて特に柄もなく、ただ日付と予定を書く欄があるだけの、何かのオマケででも貰えそうな簡単なものだった。
 
「こんな感じに埋めてるだけなんですけど」
 
 
書き込まれていたのは予定でもなんでもなく、誰かの名前ばかり。知っている相手もいれば知らない人間もいる。どの月をめくってみても、日付の下の空欄には常に名前が並べられていた。リュウの誕生日の日付には「リュウさん」とあったから、これは全て誕生日の一覧であるらしい。
 
「何なんだこれ?」
 
心底不思議に思って聞く。数年前のカレンダーなんて曜日も完全にずれてしまって何の役にも立たない。誰の誕生日が何月何日、ということを知るのがせいぜいである。
 
 
「うーんと、何だろう……なんか、ほら、今日はお世話になってるあの人の誕生日なんだって思ったら、ちょっと幸せな気分になれませんか? その人が生まれてきてくれたから今一緒にいられるんだなあっていうか……」
「あーうん、まあ……」
 
言われてみればそんな気がしないこともない。内心少しまだ考えながら、一応リュウは頷いた。にこにこと嬉しそうにしながらサキは続ける。
 
「じゃあ1年分のカレンダーを誰かの誕生日で埋められたら毎日幸せだなあって思って、何年か前からつけてるんです。だから別に、仲良くするためにつけてるとかそんなんじゃないですよ。それに誕生日おめでとうって言われると嬉しいじゃないですか」
「何つーか……お前らしいなあ」
 
そんな感想しか出てこない。きっと毎年ナナミたちと誕生日を祝い合ってきたのだろう。形式的にではなく、心から。誕生日が特別だと思うのはそういう人間の発想だ。
 
 
「誕生日ねえ……」
 
自分は彼と違ってずぼらだから、知り合い全員なんてきっと続かないだろうけれど。家族やテッドやサキたちや、解放軍時代の仲間の分くらいはつけてみてもいいかもしれない。そんなことを、思う。
 
「とりあえずサキ、あとでそれちょっと写させろ」
「えっ自分で聞いたらいいじゃないですか」
「今更聞いて回れるか!」
 
……まあ、分かる限りで。