ワスタムの焼いたパンが欲しくなって食堂に寄ったら、ちょうどホツバがアトリの来訪を告げに来た。「ちょうどいいや」とラスは言い、ワスタムから二人分のクロワッサンを受け取って外に出た。
「やあ、ラス」
「よう! 今、腹減ってないか? うちの料理人のうまいパンがあるんだ」
「へえ、もらってもいいの?」
「もちろん!」
まだ熱いそれをひとつ手渡し、どこで食べようか少し迷って、ラスは扉の前の段差に腰を下ろした。一口かぶりついて、熱いバターの香りとほのかな甘みを口の中で転がしてから飲み下す。
「……、ここで食べるの?」
パンを手に立ち尽くしたまま、アトリが不思議そうに聞いてきた。ラスが同じような顔を返せば、彼は逡巡してからラスの隣に腰を下ろす。
二口目、三口目と大口で進めながら見ていたら、彼はポケットから白いハンカチを取り出して膝の上に敷く。そしてパンを白の上に乗せると、クロワッサンの端を手でちぎった。アトリは小さな欠片を口に運んで、「ああ、ほんとに美味しいね」と言って笑う。彼がさらにパンをちぎりだしたのを見て、
「……、おまえ、そうやって食べるのか?」
今度はラスが首を傾げる番だった。アトリが「たまに言われるんだけど、癖でね」と苦笑気味に言う。なんだかシャムスやマナリルたちを思い出させる食べ方だ。てーぶるまなーとか何とか言うものらしいけれど、面倒じゃないのかと目にするたびラスは不思議に思っている。
「アトリってさあ、実はどっかの王子様だったりするわけ?」
頷かれても驚かないつもりで聞いたけれど、アトリは「まさか」と言って笑った。
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主人公と初対面の時もヌザートとの会話でも、アトリは礼儀正しい子でした。
物腰も柔らかいし、育ち…よさそうだな…という妄想!
野営にはもう慣れてるんでしょうけど、食堂がある所ならちゃんとそこで食べる、という習慣がついてるかもしれない。
アトリの本拠地らしき所にはちゃんと軍旗があるらしい(狭間から見れるそうな…)し、どっかの将軍の息子だったりしないのかしらだったら坊ちゃんとお揃いなのにな!という所まで話は膨らんだんですが、まあそこは置いときます。
09.1.23