トビラを挟んで

気が付くと、ラスはいつもトビラの前に向かってしまう。地面から金色の光が湧き出る、そしてここではない世界に繋がる不思議な場所。それは暇さえあればほとんど毎日のことで、一日に数度も訪れたことさえある。

「兄さん、どこか行かれるんでやすか?」
「ああ、いや、別に」

トビラの先に用があるわけでもないし、誰かが来ればホツバが呼びに来てくれる。そんなことは分かってる。けれどどうしてだか足が向くのだ。トビラまで来たって、その先に行けるわけではないのに。誰かに会えるわけではないのに。――いや、ホツバたちランブル族には会えるのだけれども。

「……アトリの兄さん、最近来やせんねえ」
「えっ」

不意に言われてどきりとする。ちょうど思い浮かべていたのが青銀の髪だったから、心を見透かされたような気がした。視線を向けると、「図星ですかい?」とホツバがかすかに笑う。ラスは慌てて目をそらした。

「と、トビラから来る客なんて他にもいるだろ。あっちの世界のマリカとかクーガとかさあ!」
「そうでやすけどね」
「それにオレは、あんたに会いに来てんだよ」
「はあ」

口に出してから、そうだ、と思った。トビラを通って訪れる者たちはたくさんいるし、クーガだって全て終わったら会いに来ると言っていた。ホツバとだって話したい。ああだからトビラの前に足が向くんだ、そんなことを考える。

「他の世界に行けないってのは、不便でやすねえ」
「つってもしゃーねえしなあ」

金色のトビラをちらりと見る。会いたい人ならたくさんいて、全く知らない世界の見知らぬ誰かにも会ってみたくて。

でも、いつも探してしまう姿は、一人だけだ。

     +

「……行かないのか?」

トビラを見つめていたら、後ろから声をかけられた。よく知る仲間の声にアトリは振り向いて、口元に笑みを浮かべながらかぶりを振った。

トビラの向こうには数多くの世界が広がっている。昔はよくトビラを抜けていろいろな世界を見ていたけれど、書を巡る戦いを始めてからは回廊に行く頻度が減った。その理由は分かりきっている。

「行かないよ。ぼくがあまりここを空けるわけにはいかないでしょ」

ここのところ情勢は落ち着いているけれど、自分の世界の戦いがありながら他の世界の友人に会ってばかりなんて、リーダーとしてあってはならないことだとアトリは思う。しなければいけないことだって、たくさんあるのだし。トビラの前まではつい頻繁に来てしまうけれど、決してその先へ足を踏み出しはしない。

「別に、ラスとかいう奴に少し会いに行くくらい平気だと思うがな」
「!」

彼の名前に心臓が跳ね、思わず肩を揺らしそうになったけれどどうにか持ちこたえ、アトリは仲間の顔を見上げた。「どうして彼なの?」と首を傾げながら小さな苦笑を浮かべる。別の世界の友人なら彼一人ではないし、ここのところご無沙汰ではあるけれど、会いに行くことだってある。

さあ、と仲間がうそぶいた。
言外にぼかされた意味に気づいていたけれど、アトリは何も口にはしなかった。代わりにほんの少し目を伏せた。

トビラの向こうに広がる世界ならいくつも知っている。
けれど特別行きたいと願う場所は、一つだけ。

     +

「なんなら遣いでも出しやすかい?」
ホツバが言ったけれど、ラスはただ首を振った。

「行って来いよ」
仲間がもう一度そう言ったけれど、アトリはトビラに背を向けた。

「いいよ。呼びつけるのも悪いしな」
「いいんだ。邪魔になっちゃ悪いしね」

話したいことはたくさんある。聞いて欲しいことや、見せたいものがたくさんある。顔が見たい。声が聞きたいんだ。
けれど、彼はトビラの向こう。抜ければものの数分でたどり着ける場所にいるのに、トビラを挟んでいるというだけで、ずいぶん遠く感じるのは、どうしてなのだろう。

アトリの仲間のねつ造すみません。アトリに会いたくてトビラの前に通ったのは、決して私だけではないと思います。2周目でいつアトリが来るか分かってても、やっぱり通ってしまうこの不思議!アトリもうちょっと遊びに来いよ!!

うちの二人の関係はこんな感じー。もし行けるなら時々会いに行っちゃいそうな主人公がトビラを抜けられなくて、自制できそうなアトリがトビラを抜けられる、っていうのがアトリと主人公のおいしいとこだと思う!

09.1.18