それはちょっとした雑談だった。
またいつものようにグレッグミンスターまでサキが遊びに行き、3人でティータイムを過ごすことになったときの、何気ない会話。
「お二人は軍主に必要なものって何だと思いますか?」
カップを置いてサキが聞くと、2人は視線をわずかに天井に上げて考える表情をした。二人が考えている間にひょいとサキはテーブル中央のクッキーをひとつつまむ。グレミオが焼いたというそれは、市販のものよりもずっと美味しい。先ほどから何枚も何枚も食べてしまい、果たして今日の夕食を全て平らげられるか非常に心配だ。
「そりゃあれだろ」
先に口を開いたのはリュウだった。トレードマークのような緑色のバンダナは今日も頭に巻かれている。リュウはクラッカーを数個一気に口に放り込み、頬杖を付きながら言う。
「行動力と口先と、それから探求心とイタズラ心」
「最初のはともかく、最後のはどうなの」
カップにつけかけた口を止め、カインは視線だけをリュウのほうに向けた。彼はサキやリュウとは違い、赤より黒い服を好む。もっとも赤は赤で嫌いではないらしいということを、額に巻かれた赤いバンダナが語っていた。
「何言ってんだ、イタズラ心が一番必要だろ。宿星だけで107人もいるんだぜ? やりがいあるじゃねーか! やらなくてどうする、やらないなんて選択肢はありえない!」
「……そうか」
遠くを見つめながら楽しげに答えるリュウに、カインはもうそれ以上何も言わなかった。納得したのか突っ込む気がおきなかったのか、はたまた言っても無駄だと思ったのか――微妙なところではあるが、そのやり取りにクスクスとサキは笑う。
「カインさんは?」
「僕は――気配りと配慮かな。沢山の人が集まるから」
なるほど。どちらも彼ららしい答えだ。
「でもカインさんの場合」
サキが笑いながら言うと、続きをリュウが受け持ってくれた。
「気配りがいきすぎて普段使用人みたいなことやってそうだけどな」
クッキーに伸びていたカインの手が一瞬止まり、それから何事もなかったかのように動きを再開した。その一瞬に、目もわずかに泳いだ気がする。サキでさえ気付いたその反応をリュウが見逃すはずがなく、二人でにやりと顔を見合わせた。
「身に覚えがあるんだな?」
たっぷり1秒の間。
「……使用人じゃなくて小間使いだよ」
「それは何が違うんですか?」
また1秒。
「……文字数と字面が」
「一緒ってことだろそれ」
リュウが言って、2人で声を上げて笑う。カインはちらりとこちらを見、それから何か言いかけた口を閉じて目をそらした。その変化はわずかなもので彼を知らない人から見れば無表情にしか思えないだろう。れど何度か会って話をしたり行動を共にしたりするうち、彼の表情を読み取れるようになった。それがなんだかとても嬉しい。
「それはともかく、サキ」
「この話題を出した理由は?」
急に4つの瞳にじっと見つめられてどきりとする。光にも闇にも映える深紅と、空にも海にも似たターコイズブルー。この2人から視線を受けるとたまに心を読まれている気がする。勘もよければ察するのもうまいところに、何度も驚かされたし憧れもした。こんな風になりたいと思った。
「なんとなく……ですけど」
困って首を傾げると「あ、そ。ならいい」とリュウが笑って肩をすくめてみせる。ただ、彼らの答えを聞いてみたかっただけだ。同盟軍のリーダーが本当に自分でいいのだろうか。それは今でも不安だしきちんとやれているのかも分からないけれど、多分タイプの違う2人と比べても仕方がない。自分なりのものを見つけられればと思う。まだ、これだと自信を持って言い切れないけれど。
「なら、サキは何だと思う?」
カインに問われ、サキは一拍置いてから答えた。
「どんな奇人変人にも驚かない心……ですかね?」
その瞬間、リュウはがくっと頬杖から首を落とし、カインはぴしりと動きを止める。自分の軍を見ても二人の話を聞いてもこれは絶対必要なのではないかと思うのだが、何か変なことを言っただろうか。
世界は広い。サキには想像もつかなかったような、果たして“変わった人”ですませていいのか分からないくらいの人たちが沢山いて、色々な人たちが集まってくる。いちいち驚いていては仕方ない――というか身が持たない、ということに気付かされた。
「まあ、確かに……」
珍しく遠い目をしてカイン。
「ああ、要る。つーかなかったらやってらんない」
また珍しく眉間に手を当ててリュウ。二人ともやはり覚えがあるらしい。
「いや、……まあ、面白いからいいと思う」
「ああ、そうだな……あれはあれで素晴らしい個性だ」
「ですよねー!」
同意してもらえたのが嬉しくてサキは笑う。そういえばアビスボアやからくりまるなどという、そもそも人ですらない宿星もいたななどと考えながら。
talk
最初は4コマのネタだったんですが、使う機会がなかなかないので文字にしました。幻水の仲間って濃い人多いですよね(笑)
2006.1.10