雨の日の過ごし方 5

とりあえず互いに状況説明を開始。
 
フリックとフォルスは少女に連れられてこの空間に来たらしい。少女がフリックの声に驚いてテレポート能力を発動してしまい、帰るときにフォルスも連れてきてしまったようだ。ちなみにフリックの服は彼女が一緒に持ってきてくれたそうで、変なところでしっかりしている。
 
たくさんある扉は色々な場所・時間に繋がっているらしく、3人はどこかに行っては戻り、どこかに行っては戻りを繰り返していたと言っていた。静止されたことをありがたく思うべきか、残念に思うべきかどちらだろう。ちょっと飛んでみたかった。
 
「こいつがぱんぱん扉開けるから……」
げんなりしてフリック。
 
「だって面白いじゃん!」
楽しげにフォルス。
 
「あっ聞いて聞いて! さっき昔のファレナに飛んだんだけどね、ちっちゃい頃のリムに会ってきたの! もう可愛いのなんのって。今のリムも大人な見た目と中身の子供っぽさギャップが可愛いんだけど、見た目も中身も可愛いって言うかさあ」
 
その後妹の話が始まったが、いつものことなので聞き流した。状況説明終わり。
 
 
 
リュウは話の間ずっと黙ってフォルスの手を握っていた少女に視線を向ける。誰かに似ていると思ったらビッキーそっくりだ。無表情にこちらを見返してくる彼女はビッキーの親戚だろうか。それならテレポート能力も頷けるが、驚いた拍子だったりくしゃみだったりで発動してしまうのはどうにかならないのだろうか。
 
「なあお前、なんであの風呂にいたんだ?」
「……呼ばれた気がしたから」
 
よく分からない返答だった。人見知りなのかフォルスの後ろに引っ込んでしまったので、それ以上は何も聞かないことにした。とりあえず2人には会えたのだし。ビッキーのくしゃみにも感謝しておこう。考えるべきはどうやって帰るかだ。
 
「これ全部開けていったら、どれかが繋がってたりしませんかね?」
「あ、それオレも思った。だからいっぱい開けてみたんだけど」
「嘘つけ」
 
さっき思いっきり「面白いから」と言っていたではないか。扉は大小あわせればいくつあるか分からないし、全部見ていたら日が暮れる。となれば、一番いいのは少女に送ってもらうことだ。どうやったら帰れるか聞いてみたが、少女は返事をしてくれない。
 
「ねえ、帰れないとオレ達困っちゃうんだけど、どうしたらいいのかな?」
「……帰るの」
「うん、ごめんね」
 
しかしフォルスが聞いたらすぐ答えた。一体どういう意味だ。少女はじっと繋いだ手を見下ろして、考えるように沈黙する。そういえば彼女はここに住んでいるのだろうか。だだっ広い部屋と、長そうな廊下。食べ物などのこともあるので1人ということはないと思うが、今まで他の人の声も気配もなかった。
 
 
「また会えるよ。だからちょっとだけ、さよならしよ?」
 
あやすように少女の髪をなで、フォルスがにっこりと笑う。少女はちらりと上目遣いに彼を見上げ、それからぽつりと呟いた。
 
「……玄関」
「玄関から出ればいいの?」
 
こくりと頷く少女。
 
 
フリックとフォルスがいなくなってから1日経ってしまっているし、自分たちまで消えたとなれば皆心配しているかもしれない。この部屋と扉と少女に興味はあるが、あまり長いしない方がよさそうだ。
 
「こっち」
 
少女がフォルスの手を引いて歩き始めたので、リュウたちはそれを後ろから追いかけた。迷路みたいだと思った廊下は長く、静かな中に足音が反響する。前を行く2人を見れば、フォルスがひたすら喋って少女がたまに相槌を打っている程度だったが、手を繋いで歩いている様は兄妹にも見えた。さすがシスコンをためらうことなく肯定するだけのことはあり、小さな子供の扱いには慣れているのかもしれない。
 
 
しばらく歩いていると、玄関ホールらしき場所に出た。大きな扉が正面に見える。あれがきっと玄関の扉なのだろう。「やっと帰れる……」とフリックがそちらに向かい、サキやカインもそれに続く。リュウも向かおうとして振り向くと、フォルスはまだ何か少女と話していた。
 
「手、離してくれないと帰れないんだけどなあ」
「……」
「また会えるって。ね?」
「…………」
 
少女は俯いたまま答えない。声をかけるべきか迷ったが、結局フォルスの名前を呼ぶことにした。「今行く」と答えた彼は少女と手を繋いだままこちらに歩いてくる。大きな扉の前まで来て、少女はやっと手を離した。
 
「開けるぞ」
フリックが扉に手をかける。フォルスは少女を振り返ると、にこやかな笑顔で手を振った。
 
 
 
「また会った時はもう一度友達になろうね! “ビッキー”!」
「えっ」
 
 
 
もう一度少女をよく見ようとしたが、視線を移動させるより早く世界が真っ白になった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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どさりと落ちた床は水浸しで、服が濡れた。体を起こすと白い布が体に触れる。それがてるてる坊主であることを確かめて、帰って来れたらしいと いうことを知った。回りを見回せばちゃんと全員いる。
 
「あっお帰りー」
 
明るい声がしてそちらを向けば、ビッキーが笑って脱衣所から手を振っていた。とりあえず手を振り返してそちらに向かうと、ビッキーはフォルスの方をじっと見つめた。
 
「さっき、なんでこのお風呂見たことあるのかなあって考えてて思い出したことがあるの」
「何だ?」
「フォルスさんって初恋のお兄ちゃんに似てるなあって」
 
それをビッキーが思い出したから、さっきのくしゃみであの部屋に飛ばされたのかもしれない。しかし面白いネタを聞いてしまった。リュウは肘で横に立つ彼をぐいと押す。
 
「へーやるじゃんフォルス。よっ色男!」
「ん? どういう意味?」
 
察してくれ。
 
「こいつは置いといて……。なあビッキー、今はどうなんだ?」
「え? 何が?」
 
……そこで「何が?」はないだろう。何がは。しかも笑顔で「そんなことよりお腹空かない?」と“そんなこと”扱いされてしまった。どうしてこう自分の周りには恋愛方面でからかいがいのない人間が集まるのだろう。全く反応してくれないか、からかうのが面倒くさいくらいにバカップルかの両極端だ。つまらん。
 
 
 
「あ、オレもお腹減った! 食堂行きたいな」
「俺もだ」
 
フォルスとフリックが言う。丸一日何も食べていなかったのか――と思ったら、彼らの感覚ではまだ半日も経っていないらしく、丸一日経ってることを教えてやると驚いていた。亀を助けるあの御伽噺みたいだ。折角帰ってきたのだし、それを利用して他の奴らを驚かせられないかと口元に笑みを浮かべながら考えていたら、カインにぽかりと叩かれてしまう。サキが一旦シュウに報告してくると言ったので、リュウたちは5人で食堂へと向かった――ひとまず風呂は放っておいたまま。
 
 
 
 
 
このあと何も知らない兵士達が風呂に入ろうとし、また真っ赤なホラー色に染まった風呂場を見て悲鳴を上げることになるのは、また別のお話である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
End.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

talk

 
 
 
 
別に王ビキを推すわけではありません。そして予告なく外伝ネタ(しかも裏ルート……)のネタを引っ張ってきてしまってすみません。子ビッキーとビッキーの家は外伝ネタです。外伝はさらりとやっただけなので、口調や部屋の様子等はあまりつっこまないでやってくださると嬉しいです。
 
原稿のことを思えば短編レベル(せいぜい10Pくらい?)なのですが、Web用にと考えると分けることになりました。やっぱり媒体が違うって面白いなあと、しみじみ感じてみたりみなかったり。改行の仕方もオンとオフでは違うので、オン用に考えるのも楽しいですね。
 
最近お話の作り方が似通っていたので、違う作り方したいなあと妄想した結果こうなりました。本当はもうちょっとビッキーの家を引っ張りたかった(扉を開けた先には2主の小さい頃のキャロ!とか、もしくはテッドが生きている頃のマクドール邸にタイムスリップ!とか超やりたかった)のですが、あまりに話がずれるのでばっさり却下。……後者はオフで短いの書きます。タイムスリップネタ大好き。
 
 
2006.12