「こないだな、クロデキルドがおまえのこと褒めてたぞ」
「え?」
久しぶりにラスに会いに行くと、彼は唐突にそんなことを言った。彼の言った名前は確か、ラスに剣を譲るとき一緒にいた美しい女性のものだ。ラスと一度一緒に戦ってみたいと言ったアトリに、彼女は「ならば私は引いていよう、存分に戦われるといい」と彼の隣を譲ってくれた。
「いい剣筋をしてる、一度手合わせしてみたいってさ!」
「へえ、それは嬉しいな」
アトリは彼女の戦う姿を見ていないけれど、彼女がかなりの腕を持っていることは立ちふるまいを目にすれば判る。言葉遣いからも誇りの高さがうかがえたし、自分の剣はまだまだだと思っているけれど、そんな剣士に褒めてもらえることは素直に嬉しい。
「……でも、どうして君が嬉しそうなの?」
満面の笑みで誇らしげに話してくれるラスの方が、アトリよりずっと嬉しそうに見える。そういえばヌザートと話していた時も、「礼儀をわきまえている」と言われたアトリより、聞いていたラスの方が喜んでくれた。
「そりゃ、友達が褒められれば嬉しいだろ? どうだすげえ奴だろ、って感じするじゃん」
「……そっか、ありがとう」
友達と言ってもらえたことも、そんな風に誇ってもらえることもなんだか嬉しい。同時に素直な子だなあと思った。
他人が褒められて心から喜べる人間はそう多くはないし、これは彼の大きな長所の一つだと思う。
「クロデキルドさんこそただ者じゃないなって思ったよ。手合わせは、ぼくの方から一度お願いしてみたいな」
アトリがそう言ったら、やっぱりラスは「おう、あいつ強いぞ!」と誇らしげに笑った。
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主人公のこういうところが私は大好き。
09.1.21