02 思い出になんてしたくなくて

いつも隣にいた人がいないというのは変な気分だ。当たり前のように一緒にいたから、無意識のうちに彼の姿を探してしまって、そしてそんな自分に愕然とする。もうイオンはいないのに。自分のせいで死んでしまったのに。
 
 
「……ごめんなさい」
 
 
呟いた言葉は世界と空気にとけていき、最後には何も残らない。イオンも音素になって消えていったのだと思うと、どうしようもなく泣きたい気分になった。遠い空、どこまでもきれいな優しいいろ。たとえば空に向かって歌ったら、彼の元へ届くだろうか。
 
 
「アニス、何やってんだ?」
「べっつに? ちょっと空見てただけだよ。ルークこそ何か用?」
 
 
振り返っていつものように笑ってみせる。気を使われるのは嫌だ。気を使われてしまったら、たぶん涙が止まらなくなる。優しい言葉などいらない。だって、自分のせいなのだから。大丈夫かなんて聞かないで。
 
 
「あ、えっと」
「ちょっと何なに? 目そらすなんてちょー怪しい」
 
 
口を尖らせると、急に何かの布を顔に押し付けられた。きょとんと目を丸くして、それから布を受け取ってみたらハンカチだった。何だこれ。
 
 
「……拭いてから、来いよ。ごはんできたって」
「よけーなお世話だばか」
 
 
渡されたハンカチに顔を埋めると、ルークは一瞬迷ってから皆の元へ戻っていった。鼻をすすったらなんだか情けない音がした。ルークが優しかったせいにしてしまおう。
 
 
「あたしは……イオン様が、すきです」
 
 
過去形にできなかったのは、どうしてもまだその気持ちを思い出にはしたくなかったからだ。結局本人には一度も言えなかったけれど――言えるはずがなかったのだけれど。のんびりとした笑顔が好きだった。一緒にいるとあたたかい気持ちになれた。騙すのが、とてもとても辛かった。
 
 
「大好きです……」
 
 
空に向かって叫んだところで届かないのは知っている。けれど、どうかこの気持ちを届けて欲しいと思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2006.1.5 // イオアニ万歳。