03 恋焦がれたのは、何よりも

ずっとルークに思い出してほしいと思っていた。幼き日の誓いを。大切なあの日を。けれど自分が求めていたのは記憶にある言葉などではなく、もっと別のものだったのだ。それに気付いたのはかつて自分達がルークと呼んでいた人――アッシュに再会してからだった。
 
 
 
 
「言ってみてくださいません? プロポーズの言葉を」
 
 
 
 
そう彼に頼んだのは確かめたかったからだ。7年もの間ルークを“ルーク”だと思っていたから、頭では分かっているのに心が納得しない。ルークはルークで、“ルーク”なのはアッシュで――とても単純なことのはずなのに。
 
 
困り顔のルークに、ナタリアは「聞いていたのでしょう?」とさらに頼み込む。じっとルークの顔を見つめていると、数秒置いてから意を決したように見つめ返してくれた。ターコイスブルー色の澄んだ瞳は彼と全く同じ色。けれどそこに映る光は全く別の色だ。
 
 
「死ぬまで一緒にいて、この国を変えよう」
「――……」
 
 
ルークの瞳や声は穏やかな優しい光を宿し、冷えた空気に染み入るようにとけていく。心地よい響きではあったけれど、記憶にある心を突き動かされるような強い光とは違っていた。どちらがいいとか悪いとかではなく、ただ違うのだ。
 
 
「ありがとう――……私、もうあなたが何者なのかなどと迷いません。あなたも、私の大切な幼なじみですわ」
 
 
そう言ったら、ルークは「ありがとな」とはにかんだような笑顔で答えた。声の響きも笑い方もこんなにも違うのに、どうして悩んだりなどしたのだろう。
 
 
ずっと想ってきた人は違ったけれど、だからといって後悔はない。もちろん、7年という時間を共に過ごせていたらと思わないわけではないけれど、それではルークとは出会えなかったかもしれない。それは嫌だ。
 
 
「アッシュ……あなたは今どこにいますの?」
 
 
ルークの背中を見送って、ナタリアはぽつりと呟いた。彼のことを思い浮べると心が騒ぐ。声が聞きたい。姿が見たい。会いたくて、たまらない。もう一度あの真っすぐな瞳で見つめてほしい。7年間恋い焦がれてきたのは何よりも、瞳に宿る夏の空にも似た光の強さだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2006.1.8 // 決戦前夜1のイベント、ナタリアがちょっと納得いかなかったので補間……してみたけどやっぱりちょっと納得いかない……(遠い目/いや好きなんですけど)