08 答えを出すのは、まだ早かった

ガイと初めて出会った日のことを覚えている。新たに雇ったという使用人たちとの面通しとやらのために、広間に連れて行かれた時だ。何人もの人間たちの中に彼の姿があった。
 
 
「はじめまして。ガイと申します。これからよろしくお願いいたします」
 
 
簡潔な挨拶をして頭を下げた少年を、アッシュ(このときはまだルークと呼ばれていたが)はちらりと見ただけで特に何とも思わなかった。同じ年くらいなのにもう働くのか、という程度。次の瞬間の視線さえ、なければ。
 
 
「――っ」
 
 
刺すような強い視線にどきりとした。冷えた刃のような、そのくせ熱く真っ赤に燃えたぎった炎のような、自分を射る視線。一瞬見えただけだったけれど、確かにそれは自分に向けた敵意だ。なぜ? 分からない。けれど、彼が自分を憎んでいることを本能で察した。
 
 
「おい」
「何でしょう、ルーク様」
「お前、誰だ」
「……? ガイと申します」
 
 
違う、そんなことを聞きたかったのではない。少年が何者なのか、それを聞いたつもりだった。けれどガイは首をかしげて目を丸くする。それが演技なのだとしたら相当な役者だ。
 
 
「剣はできるのか」
「はい。……まあ、多少は」
 
 
よく見れば育ちのよさそうな顔つきに物腰をしている。それが使用人としてやってきたのだから、何かわけありなのかもしれない。じっと彼を観察した後、アッシュはふんと口元を吊り上げた。
 
 
「よし、今日から剣の稽古に付き合え。丁度同じ年くらいの相手が欲しかったんだ」
「分かりました」
 
 
すっと頭を下げたガイを見、アッシュはとても楽しい気分になるのを感じた。彼が何を考えているのかは分からない。けれど、少なくとも退屈だけはしないだろう。興味を引かれる。気になる。知りたいと思う。そう思う気持ちが何なのか、そのときにはまだ答えを出すには早すぎた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2006.1.7 // アシュガイのつもりで書いてみたけどどうなんだろう。……節操なしと言われても否定はしません。皆大好きさ+