夜の闇が部屋に落ちる。
星たちに囲まれて浮かぶ月はどこまでも白く、ただそこに佇んでいた。椅子に腰掛けて窓の外を眺めていると、そのままとけてしまいそうなほど静かな時間だ。<ふと自分を見上げる視線に気づいて、ガイは向かいの席へと視線を移した。
「……どうした？」
じっとこちらを見ていたルークは「別に」と拗ねたように窓の外に目を向ける。その子供じみた動作に苦笑して、ガイはぽんとルークの頭を叩いた。
「何だよ、ほら言ってみろ」
「んでもねーよ」
軽く払いのけられてしまった手は行き場を失い、仕方ないので机に頬杖をつく。月に照らされた赤い髪には前のような長さはなく肩に先が落ちる程度。風に揺れるあの長い紅が結構好きだったのだが、言うと照れたように怒るから言わない。
ルークが横目でこちらをちらりと見たのでにっと笑ってやれば、ますます拗ねたように頬を膨らませる。よくわからない。
「言いたいことがあるなら言った方がいいぞ？」
しばらくの空白の後、ルークは視線を落としてぽつりと呟いた。
「……俺って、そんなに頼りないか？」
「は？」
意味が分からず目をしばたく。こちらは見ずに、ルークは口を尖らせた。
「ガイ、全然何も言ってくんねーし」
「そうか？ 俺自分では結構おしゃべりな類だと思うぞ」
「そうじゃなくて！」
ルークは怒ったように顔を上げ、それからまた風船がしぼむように視線を木の机に落とす。夜の風が舞い込んで、カーテンと髪を揺らしていった。少し冷えた空気が部屋に満ち、静かに壁や床にしみこんでいく。
「『辛い』とか『しんどい』とか、『悲しい』だとか……そういうこと、全然言ってくんねーじゃん。『大丈夫』つって笑ってさ。……俺にくらい、言ってくれてもいいのに」
「や、ほんとに大丈夫だぞ？」
「大丈夫なわけねーだろ！ 俺は、ガイにいっつも助けられてるのに、ガイは何も言ってくんねーんだよな。俺って、そんなに頼りないか？」
「そういうわけじゃないんだが……」
参ったなとガイは心の中で呟いて、行き場のない視線を窓の向こうにやってみる。何も言わないのは頼りないとかそういうことではなく、ただ。
彼だから言えなくて。
彼だから言いたくなくて。
彼だから、弱さを見せたくないのだ。
ルークの前では強い自分でいたいと思う自分がいる。
それはずっとずっと昔から。
「そういうわけだろ。へっ、どーせ俺は頼りになりませんよーだ」
「ルーク……」
ガイは首の後ろをかりかりと掻き、傷ついて拗ねた子供のような顔つきで窓の外に視線をやるルークを見つめる。
困った。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
2006.1.4 // ガイはルークの前で強がってるといい。