【サンプル】幸せの定義

 
約束の石版の前、それがルックの定位置だ。
 
中央ホール全体が見渡せる場所にいるから、テレポートを使った人の出入りは把握できる。
特にする事もなく立っているので基本的に暇だ、出入りする人間たちを見るくらいしかすることがない。
 
よって人に興味があるわけでもないのに、この場所を通る人間の観察が、不本意ながら日課になってしまった。
皆が昼食を取るこの時刻、人の通りはまばらだ。
 
 
ふと、ビッキーの傍の大鏡が輝く。かと思った次の瞬間、その前に同盟軍の軍主を務める少年が姿を見せた。
魔力も使わず、移動にかかる時間は瞬き一つ分。まさに名前通りの便利なアイテムだ。
 
「サキちゃん、お帰りー」
「うんただいまー」
 
ビッキーとにこやかな挨拶を交わした少年は、何かを探すようにホール内をきょろきょろと見回した。
面白いものも特にないので、ルックの視線も自然彼の方へと向いてしまう。
 
 
――一人?
 
 
それが心に引っかかる。
彼は確か、先刻バナーの村へ飛んだのではなかったか。
サキがバナーに飛ぶときは、大体そのままグレッグミンスターまで行く。
そしてほぼ必ずトランの英雄と群島からの旅人を連れて帰って来るのに、今日は当てが外れたのだろうか?
毎日遊ぶことしか考えていなさそうなあの暇人とその家の居候にも、予定なんてものがあるのか。その事実にいっそ感心すら覚えていると、
 
 
――ぱち。
 
 
少年と、目が合った。
昔から天魁星に関わるとろくなことがない。
急いでそらしてみたものの、金の輪を頭に乗せた人一倍小柄な少年は軽い足取りでこちらに駆け寄ってくる。
 
「ねえルック、今ひまー?」
 
ええい話しかけるな。
無言で拒否オーラを放ってみたが、もちろんそんな程度で彼が立ち去ってくれるはずもなく、数秒抵抗したのちに、
 
 
「……何か用?」
 
とルックは彼を見下ろした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

About

4主→テッド→坊→ルック→2主を、幸せをテーマに巡る連作短編。全力でほのぼのです。(A5/52P/オフ/09.1.11)
全部ほのぼのを集めてみました。
シリアスは極力避ける、特に2主関係は絶対書かん!と誓っていたので彼周りは特に平和です。
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