カナリア*

林檎の扱い方

* パラレルです。ティトォ・アクア・プリセラが全員同時に出ていますのでご注意ください。
 
 
 
 
「お、うまそうなリンゴめっけ」
 
 
 お面特有の鼻の良さか、はたまた良い視力のためか。
 果たして偶然と言うべきか、それとも必然と言うべきか。
 最初にそれを見つけたのはミカゼだった。
 
 
 
 
 それは、広い草原にぽつぽつと木が生えている林を歩いていた時だった。
 最初に声を上げたミカゼが指し示す方向には、1本の林檎の木が佇んでいた。
 枝を広く大きく伸ばし、みずみずしい葉は我よ我よと太陽の光を奪い合うように広がり、枝の先には実った林檎の実がついている。
 強い陽光の恵みを享受し、林檎が見るからに美味しく熟した色をしていた。
 そして今は真昼間。
 
「いいもん見つけたね」
「へえ、本当に美味しそうじゃない」
「喉渇きましたねー」
「丁度いいから休憩にしよっか」
 
 上からアクア、ティトォ、リュシカ、プリセラ。
 ミカゼも含め全員が林檎を食べることに異論がないのは当然の事で。
 
 
「そういえば途中に川があったよね?」
「ちょっと戻れば洗えますょー」
 
 何の疑問も疑念も当惑もなく、林檎を食べる方向に話が進んでゆく。
 
「おし、俺が登って取ってくる」
 
 
 ミカゼが腕をまくり上げ、真っ先に木に駆け寄ろうとする。
 その服の裾をアクアがつかみ、この上なく純粋で、この上なく悪魔的な笑顔を浮かべてみせた。
 何か嫌な予感がしたのはミカゼだけに限るまい。
 
「登らなくてもあたしの魔法で木を倒せばすぐだよ」
「自然を簡単に破壊しようとするなよ!」
 
 彼女のような者がいる限り、きっと自然破壊は止まるまい。
 しかしアクアの目は本気だ。いつもいくつか持ち歩いている棒付きの平たい飴を懐から取り出し、愉しそうな笑顔を貼り付けながら木に向かって構える。
 途端。
 
 
「リュシカ、アクアを押さえて!」
「はいですっ」
「ちょ、何すんの!」
 
 
 ティトォの言葉でリュシカがアクアに後ろから抱きついた。
 がんじがらめにしてアクアの動きを押さえ込む。
 アクアが抜け出そうと暴れるが、ティトォがアクアの前にしゃがみこんで、両手を広げてみせる。
 
 
「ほらアクア、何もないでしょ。でも手をこうやって……」
「……はァ?」 
 
 
 開いていた手の右を閉じ、左手で右手を包み込むようにして手を動かす。まるで手の中に何かがあって、それを右へ左へ移動させているかのように。
 数度入れ替えてから動きを止める。ぱ、と開くと小さな国旗が現れた。
 どうしていきなり手品なんだ。
 ミカゼは唖然とそれを見つめる。
 
「ほらミカゼ、ティトォがアクアをあやしてるうちに!」
「あ、なるほど」
 プリセラに促され、ミカゼは木に向かって駆け出した。
 
 
「……あたしをいくつだと思ってるんだい……?」
 
 
 地獄から響いてくるようなアクアの声が聞こえたが気にしないでおこう。
 数瞬で辿り着き、するすると木に登る。木登りは昔からお手の物だった。木のくぼみと枝に足や手をかけていき、実に手の届くまで辿り着くのに時間はかからない。
 その間に、下からリュシカとティトォの悲鳴が聞こえた気がするが、見るのが怖かったので見なかった。
 
 適当に見繕って林檎を5個むしり取る。
 見た瞬間にかぶりつきたい気持ちにかられたが、先に他のメンバーの分を投げようと思って下を振り返る。
 小さなクレーターができていた。
 
「おーい、投げるぞー」
 
 見なかったことにした。
 
 
「んー」
 何事もなかったかのようなアクアが最初に返事をしたので、軽くひょいと投げてやる。林檎は放物線を描いてアクアの手元に収まった。
 次に心なしか黒焦げのティトォ。彼も何事もなく普通にキャッチ。
 さらに自慢の髪が心持ち逆立っているリュシカ。ミカゼが投げると、リュシカは1、2歩前に進み出る。林檎をしっかり見て、ちゃんとつかむかと思いきや。
 林檎はリュシカの額の上をはねていった。
「うう、痛いですょ……」
 動かずに待っていればちゃんとつかめただろうに。
 
 
「ちょっとー、私が最後?」
 クレーターの範囲内にいるのになぜか無傷で、頬を膨らませるプリセラにも投げ渡す。
 プリセラは片手を上げて軽くキャッチした。
 
 
 しかし。
 
 
「――あれ?」
 
 
 ぐちゃ、と小さな音がした。
 林檎はプリセラの握力に耐え切れず、見るも無残な姿に変わってしまったのである。
 透明の汁がプリセラの手を伝って地面に一滴一滴しずくをたらす。
 
「あーあ。もったいないな、もう」
「えっ、あ、ほら。きっと腐りかけてて柔らかかったんだよこの林檎」
 
 プリセラが慌てて弁解するが、そんなわけはない。
 ちゃんとミカゼが見繕った林檎で、投げる前にその硬さは確認済みだ。
 
「次はもっと軽くつかむからさ。ミカゼ、悪いけどもう1個投げてくれない?」
「へーい」
 
 再び投げるミカゼ。
 再び崩れる林檎。
 
「おっかしーなー」
 
 以下、繰り返すこと数回。
 木から林檎が消えていく。
 
 
「プリセラの馬鹿力……」
「こらアクア、バカって言うなバカって!」
「プリセラさんっ、林檎を赤ちゃんの頭だと思って優しく!」
 
 赤ちゃん?
 リュシカの言葉にミカゼは違和感を覚える。
 赤ん坊のほっぺを「林檎のようなほっぺた」と形容はするが、林檎を赤ん坊に例えることは普通しない。
 と、思ったがとりあえず流しておき、また林檎をちぎってきて投げる。
 さっきよりはマシだったが、林檎にプリセラのツメが食い込んで、雫が僅かに垂れてしまう。
 
「きゃー、赤ちゃんの顔に爪が入っちゃったよ!」
「わわ頭蓋骨がっ。頭蓋骨陥没ですっ」
「即死だね……」
 
 
 嫌な想像だった。
 
 
(っていうか赤ちゃんの頭から離れろよ)
 しそうになった生々しい想像を振り払い、次の林檎を探す。近くの林檎はなくなってしまったので、少し移動して裏側へ回る。
 枝の位置が微妙で行きづらい。
 体をねじって枝を越え、よさそうな赤い林檎を収穫する。食べごろなのはこれが最後だった。
 
 そして再び全員のいる方向へ行ったが、誰も木の方を見ていなかった。
 影になっている所へ移動し、座って林檎を食べ始めている。
 
 
「ミカゼー早くおいでよ」
「そうそう、なくなっちゃうよ」
 
 
 ということは林檎はもういいのか?
 よく見れば、プリセラはフォークを片手に、皿に盛られたうさちゃんリンゴを食しはじめている。
 うさちゃんリンゴ。
 乙女チックさ爆発だった。
 イメージに合わねえ、なんていう台詞は言ったら殺されかねないから心の奥にしまっておく。
 
「あ、林檎はもういいよ。一番後のやつも切れば食べられるし」
 とナイフを手に携えたティトォ。
「へ? 切るって?」
「別にプリセラが受け取らなくても、ぼくが受け取ったやつを切れば食べれるでしょ?」
 
 そうかその手があったのか。
 っていうか、林檎が何個も無駄にならずにすんだのではないだろうか。
 先に言えよとミカゼは思う――いや待て。
 ティトォがナイフを持っているということは、だ。
 
 
「切ったのお前……?」
「え? そうだけど」
 
 そうか。
 切ったのはティトォか。
 うさちゃんリンゴを。
 
「俺このまま食べたいんだけど、いい……?」
 
 
 脱力感を感じつつ、ミカゼは木から降りてきて言った。
 食べたくないとまでは言わない。うさちゃんリンゴと言えど林檎は林檎。しかし、ミカゼは小さな村で野山を駆け回り、くだらない悪戯を毎日こなして、常に粗野に生きてきた人種だ。
 少女漫画モード感溢れる世界には抵抗があった。
 
「だめだよ。貸しな」
「あっこら」
 
 アクアがミカゼの手から林檎を引ったくった。
 しかしティトォにも渡さず、ひょーいと空に放り投げる。
「特別に私が調理してあげるよ」
 アクアの笑顔を見てミカゼははっとした。
 このままではいけない。
 絶対に食べられない状態にされてしまうに決まっている。
 
 
「させるかぁ――!!」
 
 助走をつけて自慢の足で思いきり跳ぶ。
 投げ上げが自由落下に変わって落ちてくる林檎に手を伸ばす。
 そう、食べられそうな林檎はこれが最後。これを逃すともうない。
 
「スパイシードロップ!」
 
 アクアは林檎を見事キャッチしたミカゼごと、何も気にせず最大出力で焼いた。
 真っ青な空に、昼間の花火が見事に上がったが、花火自身であるミカゼは楽しむことができなかった。
 楽しむことができるだろうか、いやできない。
 
 
「たーまやー」
「きれいですねー」
「ホントにねー」
 
 小さく下から聞こえるのんきな声。
 後で覚えてろティトォ、とミカゼは心の中で思う。女の子に手をあげるわけにはいかないので、ティトォ一人に報復させてもらおう。
 
 
 後で、といっても具体的にどうしようか、と考えた瞬間に、ミカゼは地面にめり込んだ。
 
 
 
 
2003.3.17 // いてて…

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