カナリア*

【サンプル】ほのぼの日常

 ―― ふ わ り。
 
 
 風がゆるやかに流れて、どこかに走り去っていく。
 ターコイズブルーの目に映るのはどこまでも澄んだ空の色と、軽やかに浮かぶ真っ白な雲の色。耳に届くのは笑い声だ。のどかで、とても明るい喧騒。
 町に入った瞬間、どこか懐かしい気配がした。
 リュウは何やら考えるような表情で棍を握り、サキは不思議そうに手袋の下にある輝く盾の紋章を見下ろしている。そしてカインは――
 
 
『また会おうねカインさん。できれば、近いうちに』
 
 
 別れの日にそう言って笑った、異国の少年を思い出した。
 
 
 
   +
 
 
 
「じゃあぼくたちは買い物して来ますんで、お二人は自由にしててくださいね」
 
 とりあえず拠点として宿を取り、荷物を置いてしばしの休息。適度に休んだところで、サキがカインとリュウ以外の仲間を連れてそう言った。しかし買い物といっても武具などを買っていけば自然と荷物は重くなる。
「俺らも手伝うぞ?」とリュウが言ったら、
「こっちは大丈夫ですから、何か面白いものでも見つけたら教えてください」
 サキがいつものようにのほほんと笑って答える。
 
 真の紋章に近い何かの気配が近くにあることは、ひとまず仲間には伏せておくらしい。相手が何者なのか分からないし、買い物という名目があれば固まって動ける。なるほど、悪くない。
 
 
「分かった。じゃあ僕らは町を自由に散策させてもらうよ」
「はーい。晩ごはんの時間には戻ってきてくださいね」
 
 
 また後でと別れ、カインはリュウと町に出る。平日の町は人通りもさほど多くはなく、ゆっくりとした時間が流れていた。子供達が走り回り、今が戦争中であることを忘れかけてしまうほどにのどかだ。
 
 
「どうする? 手分けするか?」
「僕はどちらでも構わないよ」
 
 
 人の流れの中に探してしまうのは、輝く長い銀髪だ。彼が今もあの紋章を手にしているという保障はどこにもないのに、目が勝手に探してしまう。あれからもう十二年が経っているけれど、彼ならもしかしたらと思ってしまうのも確かだった。
 
「世界が狭いのか紋章が呼び合うのか、どっちだろうな?」
「何が?」
「俺、お前、サキ、ルック。それからどっかの誰かさん。真の紋章は二十七個だけなんだろ? これだけ集まる確率は決して高くないと思うぜ」
「そうだね」
「それに、レックナートやウインディ、シェラ―俺、まだ十七だぜ? 紋章の持ち主をこれだけ知ってるのっておかしくねえ?」
「身を置く環境もあると思うけど……」
 
 そんな話をしながら広い通りを歩く。ちょうど昼時なので、飲食店の中はいっぱいらしかった。二人で手分けしたとして、闇雲に探し回っても仕方がない。ならばあまり動かずに、店の中から通りを見張るというのもいいかもしれないとカインは思う。
 思い出すのは雨上がりの朝顔にも似た彼の笑顔。夏の朝の風が駆け抜けていくような、そんな表情。初めて彼に会った日は確か、後ろから彼に服をつかまれたのだ。
 
 
「ちょーーーーっとそこのお二人さん!!」 
 
 
 そんなことを考えていたら、急にむんずと後ろから上着をつかまれた。不意打ちだったのはリュウも同じだったらしく、二人でばっと振り返る。確かに今少しぼんやりとしていたが、二人して近づいてくる人物に後ろを取られてしまった。
 
「今暇? 暇だよね? 暇でしょそんな顔してるし!」
 
 そう話しかけてきたのは銀髪の異国の少年。
 思わず身構えたカインとリュウだったが、緑の混じった深い蒼の瞳に邪気はなく、にこやかな笑顔で続ける。
 
「えっ暇? うわー嬉しいなあそんな暇な二人にちょっとお話があるんだけど」
「いや暇なんて誰も言ってねえし」
 
 リュウのツッコミはもっともだったが、見事に聞き流された。
 
「今昼時でしょ、店がすっごい混んでてちょっと人手が足りないんだよね。バイトを早急に超絶募集中なんだけどどう? えっやってくれる? うわーありがとう!」
「いや聞けよ人の話!!」
「じゃーこっち! ほら来てダッシュ!」
 
 
 リュウの手首をしっかり掴み、右手の店に向かって少年が駆けていく。風に揺れる銀色の長い三つ編みに、カインはやれやれとため息をついた。その少し―いやかなり強引なところはちっとも変わっていないらしい。むしろ磨きがかかっている。
 
 
「ちょ、誰もやるなんて言ってねえじゃんか!」
「店長がちゃんとバイト代はずんでくれるって! ……たぶんね」
「たぶんかよ!?」
 
 もう百五十年あまりの時を生きてきたけれど、十二年というのは短いようでいて人が変わるには十分な時間だ。変わっていないことが少し嬉しくもあり、不思議でもある。
 
 
「店長ー! バイト二人見つけてきたよ!」
「だからやるなんて誰も言ってねえじゃん!!」
 
 少年がこちらを見て笑ったので、カインも微かに笑顔を返す。
 
 
 ―― ふ わ り 。
 
 
 吹いた風に、道端のタンポポが綿毛を飛ばした。
 
 

About

坊+2主+4主+王子で合同誌。2時代。(A5/160P/オフ/06.8.19)
ほのぼの日常系らしき15のお題:http://littlemoon.littlestar.jp/memo/

電子版はまつり分のみ収録しています。

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