「……随分気に入ったんですね、“その子”のこと」
普段ならカインは、合間に少しの相槌を打つことはあっても、人の話の途中に口を挟むことは絶対にしない。けれどテッドの思わぬ話には、約150年ほどの人生の中で初めての例外を作らせるだけのものがあった。
人と頑なに距離を置こうとした彼が、無愛想にずっと振る舞っていた彼が――出会って２年に届くか届かないかの少年を、笑顔で“親友”だと語ったのだから。
「まあ……な」
しかも多少戸惑いを見せつつも、はっきりと“肯定”しさえした。口元に穏やかな笑みすら浮かべながら。カインには顔と名前が同じだけのまったくの別人に見えた。これが驚きでなくて何だろう。
カインが外見の年を取らなくなってから、もう百年どころではない年月が過ぎた。その間、何度も彼とは旅中に再会している。その時間の中、ただの一度も“変わった”とは思わなかったのに。
一度だけ、一緒に旅をしないかと誘ってみたことがある。その時彼は、
「勘弁してくれ、これ以上お前を気に入りたくない」
と言って苦笑した。予想していた答えだったから「そうですか」と別の方角を目指して別れた。たまに不意にどこかで出会う、それだけの関係を続けてきた。自分に対してもそんな風であったから、まさか彼が引いた一線を誰かに越えさせるとは思わなかったのに。
たったの２年。
それだけの時間で、少年との出会いはここまで彼を変えたのか。カインは感嘆の息を吐き、思わず目を細めた。
「何だよその顔」
「……いえ、いい出会いだったんだなと思って」
テッドはカインから目をそらし、「俺だってびっくりしてるよ」とカップに口を付けながら言う。驚きはしたけれど、彼にとって良かったんだろうと思う。長い時間の中で親友とさえ呼べる相手に出会えたこと、心から祝福したい。
けれど――いや、だからこそ。
「どうするんですか？ これから」
それだけの相手に出会えたからこそ、テッドの右手に宿る紋章が彼の親友を求めるであろうことは明らかだった。ソウルイーターの性質があるから、テッドは相手と決して近づきすぎないようにしていたのだ。
「そいつさ、もうちょっとしたら宮廷に上がるんだって。近衛兵？ってのになって、まあ俺もよく分かんねーけど、いろんなとこに使いに出されたりするんじゃねーかな」
無言で頷いて、カインは続きを聞く。兵。どの程度かは想像するしかないが、国に何かあれば少年は戦いにも出向くのだろう。そうなればソウルイーターが動く危険性も上がる。グレッグミンスターをその少年が空けるようになれば、そのタイミングで離れるのだと思った。けれど――
「俺さ、テオ様に恩返しがしたいとか適当に理由を付けて――そいつにくっついて行こうかなって、思ってる」
そう、穏やかに笑って言う彼に。
カインは今度こそ、目を見張った。
「はは、お前のそんな顔初めて見た」
「いいんですか？」
静かに、問う。テッドはそれにゆっくりと頷きを返した。
「遅いんだよ、もう。今から離れたってどうにもならない。遠い場所からだってこいつはあいつを食らおうとするだろう。だからさ」
そう言って、すっかり決めてしまった表情で。
「俺の全てをかけて、俺はあいつを守るよ。死なせないために離れるんじゃなくて、失わないために傍にいる。そんな選択肢もアリかなって、思うようになったんだ」
テッドは、カインに笑顔を向けた。そんな表情でこんなことを告げられて、一体何が言えるだろう。
人を一人守ること、それは口で言うほど簡単ではない。特にソウルイーターを持つ彼にとってはなおのこと。テッドはそれら全てを承知で親友の傍にいると決めたのだ。カインは言葉を全て飲み込んで、小さく笑顔を浮かべた。
「応援してますよ」
「サンキュ。……ワリ、俺そろそろ行くわ。あいつと約束があってさ」
「はい。ここは僕が払っておきますから、早く行ってあげてください」
「そうか？ じゃあゴチになる」
また、とお互いいつもの短いやりとりをしてテッドは店の外へと駈けていく。残されたのは空になったカップと小皿。カインはそれをちらりと見た後、店の外に視線を移した。テッドはもう通りの向こうだ。
「どんな子なのかな……」
ぽつりと呟く。一度は紋章から逃げさえした彼に、“守るために傍にいるんだ”と言わせるなんて。遠くからでも、一度見てみたい。
そして願わくば――
彼らがずっと共に在れるように。カインは心からそう思った。
—
１プレイ時から不思議だったのが、テッドの「テオ様に恩返しがしたいから連れてってくれ」でした。
なんでついてくの？と。話が進まないからというゲーム的な理由はさて置いて。
んで私の結論としては、こうだったらいいなあでした。
離れるんじゃなくて逃げるんじゃなくて、守るために戦ってほしい。
テッドはそれだけの強さを持った人だと思います。
（もちろん強くなれたのは４様や坊っちゃんのおかげだといいなと思う）
そう思っていたからこそ蟻（だっけ？）相手にソウルイーターを使ったり、シークの谷で命を投げ出せたりしたのかなあと。だったらいいなあと。
なんかそんな戯言でした。テッドだいすき（*´▽｀*）
昔書いた話と少し矛盾したかもしれませんが、まあ気にしないことにします。
2007.10