カナリア*

金銭感覚

昔、親友に言われたことがある。
 
 
「リュウの金銭感覚は間違ってる」
 
――と。
 
 
その時はそうかなと首を傾げただけだったけれど、テッドと遊び回るうちにそうかもしれないと思うようになった。街ではよく遊んでいたから、普通のものの値段は知ってる気でいたけれど――値段を知っていても、1回で使う金額がおかしいのだそうだ。それに高いものを高いと思ってないと言われた。
 
けれど、やっぱり“高い”の基準が今だに分からない。
 
 
 
「――だから、食いたかったんだろ?」
 
リュウが頬杖をついて言うと、同盟軍軍主――サキは困ったように肩を落とした。
 
「それはそうなんですけど、あれは憧れを口にしただけで本気で言ったわけじゃ……」
 
きょろきょろと周りを見回し、再びため息。リュウにはサキが何が言いたいのか分からない。グレッグミンスターにある料亭を見てサキが「一度こんなところで食べてみたいですね」と言ったから、入った。それだけのことなのだ。ちょうど昼時だったし、リュウがおごると言ったのだが――何がそんなに嫌なのだろう。
 
 
助けを求めて黒服の少年、カインを見る。
「……まあ、普通はぽんと入らないかな、こんな高いところ」
相変わらず表情にあまり変化がないが、その言葉にはわずかに苦笑がにじんでいる。
 
「普通に入るだろー」と首を傾げながら、リュウは渡されたメニューを開いた。蟹肉のあんかけ炒飯、海鮮焼そば、どれもおいしそうなメニューばかりだ。春巻と餃子も食べたい。この面子なら多少頼みすぎても大丈夫だろうし、適当に頼もう。
 
 
心を決めて顔を上げると、サキがメニューに視線を落としたまま固まっている。ひらひらと目の前で手を振ってみたが、ほとんど反応してくれない。
 
「……リュウさん」
「決めたか? 何頼んでいいぜ」
「……ここ、すっっっごく高いんですけど……」
「そうか?」
「そうですよ!」
 
思いの外声を出してしまったのか、響いてしまった声にサキは慌てて小さくなる。こんな高いもの食べられませんとほぼ半泣きだ。
テッドとは逆の反応だなと、ふと彼を思い出して思わず笑みが浮かんだ。あの親友はおごるといったら大喜びで、そのあとこんなものばかり食べるのは金の無駄遣いだと怒りだした。でもどこが高いんだろう。何が無駄遣いなんだろう。リュウにはさっぱり分からない。
 
「だから普通だって。武器鍛えたり防具買ったりすることに比べれば全然安いだろ?」
「それは比較対照が間違ってます!」
 
きっぱり言われ、リュウはカインの方を見る……頷かれてしまった。今回味方はいないらしい。
 
 
「食事なんてですね、栄養さえしっかりとれれば安くていいんです。1食200ポッチもかければ十分多いくらいです。贅沢は生活の敵なんです。節約料理で十分ですよ。ハンバーグは豆腐ハンバーグが基本です」
「そーかぁ?」
 
確かに豆腐は安いだろうが、ハンバーグが食べたいなら普通にハンバーグを食べればいい。豆腐は豆腐として食べればいいではないか。
カインに疑問を投げると、今度は彼も首を傾げてくれた。やった。
腹の虫がきゅるりと鳴って、リュウはとりあえず議論を棚上げし、注文するため店員を呼ぶことにする。
 
「2人とも決めたか?」
「……僕は海鮮あんかけ焼きそばを」
「えーそんな安いのでいいのかよ。おごるっつってんのに」
「いや、十分高いよ」
 
 
 
2500ポッチ。高くない。
 
 
「サキは?」
「え、えっと……ぼく、肉まん一個でいいです……」
「はぁ!?」
 
ふたりとも遠慮しすぎだ。最近鍛練もかねてモンスター退治をしまくっていたからお金なら十二分にあるし、遠慮し合う間柄でもないのに。少しむっとして、リュウは来た店員に言った。
 
 
「このメニューのもの全部一個ずつ持ってきて」
「え!?」
「リュウさん!?」
 
 
もともとメニューは飯と麺が計5品と単品10種くらいしかない。実のところはともかく体の年令は育ち盛りの少年3人、食べれないことはないはずだ。それに自分も食べたい。
 
「だ、だめですよリュウさん!」
「なんで?」
「だから、贅沢は生活の敵なんですってば!!!」
 
よく分からないことを言うサキの横で、カインが一人冷静に店員に片手を上げる。
 
「すいません、今の取り消しで」
「は、はぁ……」
 
店員は困ったように三人を見比べていたが、とりあえず無視しておこう。全部買ったって38153ポッチと十分出せる額だし、武器を鍛えることを思えば大したことはない。何より金を出すのは自分なのだ。文句を言われる筋合いはなかった。
 
「いーじゃんそれくらい、食えるだろ?」
「そういう問題じゃないですから!」
 
サキはおしぼりを握り締め、必死に力説してくる。
 
「いいですかリュウさん、タイムイズマニーと言いまして、お金ってのは時間と同じくらい大事なものなんですよ」
「……サキ、そのことわざの意図するところはちょっと違う気が」
「黙ってください」
「……ハイ」
 
普段なら絶対にしない彼の物言いに、どうしよう、とリュウは真剣に考えた。
 
 
「世界には貧しい人たちもいっぱいいてですね、今日狩りをしないと食べ物がないという事態におちいったり、自分達で毒味しながら山できのこをとっておかずにしたり、しかもあたって腹を壊したり……」
なんだか、話が妙に現実味を帯びているのは気のせいだろうか。
「えっと、サキ?」
「とにかく、無駄遣いはだめなんです!」
 
だから何が無駄遣いなんだよ、と思わないでもなかったが、このままだとそのまま突っ走ってしまいそうなのでとりあえず頷いておく。それよりそんな話はしたくないのだけれど、少し気になったので聞いてみた。
 
 
「なあサキ、軍資金は足りてるのか?」
あの軍師のことだからいくらでも稼ぎだしてくれる気はするけれど、いかんせん戦いには金がかかる。軍事物品をはじめ食料に慰安金、いくらあっても追いつかない。
 
「え、まあそれなりに」
「何なら個人的に貸してやろうか? 3千万ポッチくらいならすぐ出せるけど」
「さ……!?」
 
一瞬きょとんとしたサキの表情がみるみる強ばって、そのまま机に突っ伏した。何か変なこと言っただろうか。
 
 
「リューウーさーん……」
「だから、何なんだよ」
 
カインに助けを求めると、我関せずとでもいうように1人水を飲んでいた。おいと軽く睨むと、カインはコップを机に置く。
 
「……金銭感覚がおかしいのは2人共だと思うけど」
「えっぼくもですか!?」
 
カインは頷いて、それよりとメニューを指し示した。そういえばまだ頼んでいない。もう一度店員を呼ばなければ――いや、その前にサキにもうちょっとちゃんとしたメニューを選ばせないと。
 
 
「適当に頼んだけどよかったかい?」
「え!?」
「いつの間に!?」
「さっき。必要以上には頼んでないからそれでいいよね、サキ。1人1品は頼んだからリュウも納得すること」
 
リュウとサキはちらりと目を合わせ、それから互いに頷いた。まあ、確かに全品食べたかったわけでは――食べたかったが――まあ、いい。
 
「で、何頼んだんだ?」
「えっと……海鮮あんかけやきそばと、蟹身天津飯と、海鮮八宝菜、それから魚肉まん」
 
海の幸ばかりだった。
っていうか魚肉まんって何だ魚肉まんって。
 
 
「皆で取り分けるか。ちゃんと食えよ、サキ」
「はい、頼んだからには絶対残しません!」
 
気合十分な様子で言うサキに、リュウは苦笑した。そしてメニューにもう一度目を向け、高いのかなあと首をかしげた。
 
 
金銭感覚というものは、分からない。
 
 
 
 
 
 
 

talk

 
お坊ちゃんですから。お金持ちの子ですから。解放軍時代、きっとマッシュたちが苦労したんだろうなあと思います。逆に2主は、なんか、苦労してそう……。そして4主は年の功で一番普通だと思います。
 
2005.11.3 

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