カナリア*

協力攻撃 with キリル

「カイン、稽古につきあってもらえないかな?」
 テントの入り口をめくって中を覗くと、カインは昔の仲間たちとともにカードゲームをしている最中だった。
「……ごめん、やっぱりあとでいいよ」
 少しタイミングが悪かったかもしれない。キリルは苦笑して体を引っ込めた。
 
 再び入り口を閉じ、なら誰に頼もうかと思案しながら空を見上げる。
 丸い月は辺りを照らすのに十分な光を放ち、その周りで星がここに在るのだと主張するかのように小さな光をきらめかせていた。
 
「キリル君」
 後から声をかけられて、少し驚いた。剣を腰に携えたカインがそこに立っていたからだ。
「稽古はどこでやるんだい?」
「え、いいよ今日は。明日にしよう、時間も遅いし」
 そろそろ寝る者もではじめる時間だった。ふと思い立っただけの稽古のために、仲間とのゲームを中断させるのは悪い。
 
「いや、せっかくだからやろう。向こうに広いところがなかったかな」
「あったけど……いいの?」
 
 歩き始めていたカインは、振り返って不思議そうに首をかしげた。
「……何が?」
 
 
   +
 
 
 戦い振りを見ているだけでも思ったけれど、手合わせしてみればよく分かる。
 カインのスピード、パワー、剣の動き、どれをとってもすごいと感じる。これほどの強さを持った人をキリルは今まで見たことがない。
 
 毎日戦闘では先陣を切って飛び出してモンスターたちと戦っているというのに疲れは微塵も見せない。
 むしろ戦闘中にカズラーを見ながら「……あれっておいしいのかな」という発言をして周りを驚かせるくらいだ。
 ちなみにあとで聞いたところによると、知り合いのまんじゅう屋がカズラーの花を材料にしたまんじゅうを作りたがっているという話を思い出したのだそうだ。しかし戦闘中によくそんな余裕があるものだと思わずにはいられない。
 
 
「――少し、休憩にしよう」
 その言葉と同時にカインが剣を引く。
 キリルはふうと息をついてその場に座り込んだ。
 息が切れて汗が吹き出す。心臓の音が脳に響いてうるさい。
 
「やっぱり、さすがだよね」
 呼吸が落ち着いてから呟くと、カインは「まだまだだよ」と小さく首を振った。
 キリルでは全く歯が立たないほどだというのにまだ上を目指そうとするのか。自分の力に、決して奢ることなく。
 肉体的にも、そして精神的にも強い人だと思う。自分もこんなふうになれればいいと憧れを抱く。
 トラウマから魚人に剣を振るえない自分には到底届かないのかもしれないと、思うことはあるけれど。
 
 認めてもらえるようになりたかった。この人に。
 かつて彼と戦った人たちのように、背中を預けてもらえるくらいには。
 
 
「ねえカイン、双剣攻撃ってあれどっちから言い出したの?」
「キカさん」
「そうなんだ」
 
 
 キカとカインが2人で戦っているとき、どちらも後ろは見ない。後ろには彼が、彼女がいるから大丈夫。そう思えるから、前の敵に力をめいっぱい出せるのだろう。
 少しうらやましいと思う。風の陣の上で背を預け、共に戦う2人が――いや、カインに信頼されるキカが、かもしれない。
 
 
「……したいのか?」
「え?」
 顔を上げると、カインが「協力攻撃」と言う。どうやら今のを、何がしたいのか分からなかったととられたらしい。
 
「いいの?」
「僕は構わないよ」
 自分でも子供みたいだと思う。けれど、こみ上げてくる嬉しさは抑えようがなかった。
 強さに憧れたその人に、共に戦おうといわれたら、だって。
 
「よーしカイン! どんなのにするか考えようか!」
「ああ」
 
 
 勢いよく立ち上がって、キリルは満面の笑みを浮かべる。
 さっきの稽古の疲れなど、おかげでどこかに消えてしまっていた。
 
 
 

talk

 
 キカとの協力攻撃を書いたら、キリルも書かなきゃ駄目でしょう! と妄想した結果。カインとキリルの協力攻撃、ゲーム中はとてもあっさり習得していましたよね。それはいつ考えたんだいつ。と思ったので、脳内保管しました。
 
2005.10.13

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