カナリア*

無人島での出会い

 
「君たちは……?」
 
 黒い服に身を包んだ少年が、こちらを振り返って不思議そうに呟いた。
 手には抜き身の双剣を携え、少年の背丈より大きな巨大蟹を前にしているという――その状況下で。
 剣は構えもせず自然な姿でただ手に持って、モンスターから視線を外している。
 あまりに無防備に見えたその様子に、キリルは一瞬自分が声をかけたことを忘れてしまった。
 
 
 ――だが。
 
 
「あ、危な――!」
 
 巨大蟹がたくさんの手のうち一本を大きく振り上げたのが見えた。
 思わず駆け寄ろうとしたその時には、少年の姿は同じ場所にはない。
 代わりに関節のところできれいに切りとられた蟹の赤い足がぽとりと落ちる。
 重力に引かれ物は何でも地に落ちる。そんな当たり前のことが、すぐには信じられなかった。
 あまりにも自然に、当然のように落ちたから。
 
 巨大蟹が咆哮を上げるその間、キリルは黒服の少年をまじまじと見てしまう。
 一瞬の動作だったが目に焼き付いたその剣の筋。おそろしく速く、そして軌跡は流れるように美しい。
 寸分の無駄も乱れも、隙すらもない。
 一切表情を変えることなくやってのけたが、簡単にできる動きではなかった。
 リノ=エン=クルデスから紹介された少年は、キリルが思っていたよりずっと――
 
 
「……僕に何か用かい?」
 
 
 少年がこちらを見て首を傾げたので、キリルははっと我に返った。
 そうだ、自分達は彼の剣を見にきたのでも何でもない。
 
「君、カイン? 実はオベルの王様に頼まれた伝言があるんだけど……」
「リノさんから?」
 
 再び動く蟹。モンスターが口から泡と共に放った青い光を、少年――カインはすっとよける。
 小さく息を吐くと、ようやく両手の剣を構えた。
 それだけのことなのに、とたんに空気がぴしりと張り詰める。気を抜けば息が詰まってしまいそうなほどに。
 
 
「すまないが少し待っててくれるかい。こいつは今日の晩ご飯なんだ」
「え……」
「あの蟹、食べれるんですねえ。美味しいのかしら?」
 さすがと言うべきなのか、後ろでセネカがのんびりと呟いた。
 
 蟹が再び吠える。そして増えるのは敵の気配。
 彼が強いのは十分にわかったが、数が増えれば大変だろう。
 
「僕も手伝うよ! セネカ、アンダルク、援護して!」
「はい!」
 
 
 武器を手に砂浜を駆ける。蟹の足を狙って振り下ろすと、そのおそろしく硬い殻にはじかれてしまった。
 砂の足場は思う以上に動き辛く、また蟹も図体の割に速い。そしてキリルの武器すら弾く殻。
 いとも簡単に敵の動きを封じ傷を与えていくこの少年を、信じられない思いで見つめた。
 カインはこちらをちらりと見、再び敵の方を向く。
 
 関節を狙えばいいのはわかる。殻と違って、動かすところは硬くないはずだ。
 理屈はわかるが、動き回るそれをとらえるのは口で言うほど楽ではない。
 繰り出される攻撃を防ぐだけで手いっぱいになる。
 
 
「――前は任せる」
 
 
 そんなカインの声が聞こえた瞬間、彼は高く跳んでいた。
 ぴしりという硬い殻が割れる音とわずかな着地音。
 そして――強く紅い光が巨大蟹を貫いた。
 真っ赤な光。惹かれる、けれどどこか不気味な。
 
 頭の奥が、ちりりと痺れる。
 あの光。
 昔、どこかで。
 
 
 泡を吹いて足元に倒れた巨大蟹はそれから動かなくなった。
 はっとして周りに目を走らせると、カインがもう一体の蟹につっこんでいくところだ。
 そして右手にいる棍棒を持ったモンスターのうち一体を、セネカの矢が葬ったのが見える。
 
 蟹は、彼に任せよう。
 そう決めて残ったもう一体のモンスターの後ろに回り、斬る。一発では倒せなかったが、続けて攻撃を加えると倒れて動かなくなった。
 ふう、と息をつく。もう一度周りを見渡したが、もう動いているモンスターはいない。
 カインがこちらに歩み寄ってくるのが見え、武器をおさめた。
 
 
「手伝ってくれてありがとう。ええと――」
「キリルだよ。……君、強いね」
「君たちもね。ありがとう、おかげで早く片付いた」
 
 そうは言うが、実際のところ彼1人でも十分だっただろう。
 キリルは苦笑して、オベル王の伝言と一緒に来て欲しい旨を伝える。
 すると「彼らしい頼み方だね」といって了承してくれた。
 ついでに、取った蟹も皆で食べていいというので今日の夕食にさせてもらうことにする。
 
 
 しかし、自然と彼の顔に目がいった。
 さっきから話しているが、戦闘時と同じくほとんど眉ひとつ動かさない。
 表情がないのとは少し違うのだが、なんとなく――何だろう。
 
「カイン、久しぶりだ」
 キカの声が聞こえて、ああそいうえば知り合いだと言っていたことを思い出す。
「キカさん――?」
 わずかにカインが目を丸くする。ほんの少しの表情の動きだったけれど、違和感を払拭するには十分だった。
 
 ふっとキカは「そんなに驚くことか」と苦笑する。あれでもかなり驚いた表情であるらしい。
「さっき罰の紋章の光が見えたが……どうなんだ? その後、左手の紋章は」
「大丈夫みたいです。使っても、もう、前みたいに倒れたりはしません」
「そうか……よかった。それを聞いて、少し安心したよ」
 キカが言う。
 
 
 そして、少しだけ間が開いた後、小さく――本当に小さく、カインが笑って言った。
 
 
「心配してくださって、ありがとう――ございます」
 
 
 少しはにかんだようなやわらかな笑顔。
 ふっと見せたその表情に、キリルは彼と仲良くなれそうな気がした。
 友達になれたらいいな。せっかくだから、稽古をつけてもらおうか。
 
 
「これからよろしく、カイン」
「――ああ、よろしく」
 
 手を差し出すと、同じように手を出して握り返してくれた。
 この先の旅が、今まで以上に楽しくなりそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

talk

 
 キリルは4主に懐いていればいいと思います。坊ちゃんに対する2主みたいな。
 ちなみに無人島イベントでは4主が回復もせず一人でつっこんで離脱するという事態におちいりましたが、なかったことにしました。
 
2005.10.6

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