カナリア*

きっとできない

ディルクの取った行動と言動を、ジェイルは理解できないでいる。
なぜ協会に組したのか、なぜこちらがおかしくなったと思っているのか。あれから何度顔を合わせても言葉を交わしても会話が噛み合わない。お互いに向かい合っているのに、全く別世界の知らない誰かと話しているようだ。交わることなく、平行にすらなれないねじれた直線を思い出す。こちら側の投げた言葉も向こうからのそれも全て暴投、キャッチボールがまるで成り立たないのだ。

彼は書を焼こうとした。フューリーロアたちと一度は関係がこじれたのもディルクの言葉が原因だ。あの時彼の言葉を嘘だと、彼は敵だと言えなかったラスを責めることはできない。ラスとディルクは本当の兄弟のようだと村人たちから言われるくらいに仲がよかった。マリカやリウ、そしてジェイルも彼とのすれ違いを歯がゆく思っているけれど、特に心を痛めているのはラスかもしれない。

彼らの辛そうな顔を見るたび、心の奥からわき上がってくるのは純粋な怒り。
いい加減にしろ、と我を忘れて怒鳴りたくなる。
おまえは一体、ラスたちの何を見てきたのだと。どこを見ているのだと。
城の廊下を早足で進みながら、強く噛みしめた歯の隙間からつい声が漏れる。

「これ以上ラス達を苦しめるなら、いくらディルクでも……」

言葉と同時に手を強く握り締めた。
それはやり場のない怒りの向けた先。誰に聞かせるつもりもない独白。
けれど、

「……ジェイル?」

――と、すぐ側から返ってくる声があった。
振り向いたジェイルを見上げてくる心配そうな灰色の眼。同じ色の髪と、空色の鎧。呟きに名を含めてしまった少年の姿がそこにはあった。
ジェイルは少し唇に力を込めてそこを閉ざす。決して大きな声を出したわけではない。けれど彼は、今のジェイルの独り言を聞いてしまったろうか。

「あーっと、その……」

こちらから視線をそらして気まずそうな表情を浮かべるラスに、ジェイルは「すまない、忘れてくれ」とわずかな苦笑を向けた。よりによって一番聞かせたくない相手に一番聞かれたくない言葉を耳に入れてしまったらしい。ラスはああと小さく頷きはしたが、そこから動こうとはしない。
言いたいことがあるのだろう、しかしそれを自分は聞くべきだろうか? やや迷ったけれど結局、ジェイルは黙って続きを待つことにした。

「あのな、……そういうこと、言うなよ」

彼は苦笑と共に手の甲でこちらの胸をトンと叩いた。「オレたちが信じて呼んでやらなきゃ、ディルクは絶対こっち来れねえじゃん」という言葉が続く。
彼はまだ、ディルクがこちら側に戻ってくる可能性があると信じているのだろうか。彼の口癖のように、やってみなきゃ分からない、と。いや彼だけではなく、マリカもまだ諦めていないように思う。リウはどうだろう。……自分は?

昔の頼れる皆の兄貴分だった頃の彼をまだはっきりと覚えているから、まだ望みはあると願いたい気持ちはもちろんある。実現の可能性についてはあまり期待してはいないけれど。
一度壊れてしまったものを元に戻すことは難しい。例えそれが何であれ。

答えを探しあぐね、ただ黙ってラスを見つめていると、「それにな、」と彼は言った。

「……、おまえにはできねえよ」
「何が」
「なんか、いろいろ」

具体的なことは口にしたくないのだろう、そう思ったから問いを重ねることはしなかった。ただ黙って薄く笑った。そのジェイルの笑みをどう解釈したのか、それはジェイルの知るところではない。

「だっておまえ、優しいもん」

ラスのその言いに、「誰にでも優しいわけじゃない」と、彼を含めた幼馴染達の姿を頭に描きながら、心の中で静かに言葉を返した。

ジェイルは「ディルクでも」と言ったけど、ディルクがああなった時に涙を浮かべたんですよね。口で何て言ったって、きっと、できないよ。と(2周目で)思ったセリフでした。
ジェイルはぱっと見クールで物腰も落ち着いてるけど、きっとまだ子供で、優しくて、非情にはなりきれないんじゃないかなあ。というのが私の解釈です。
1発殴るくらいはきっとできるんだろうけど、斃すことはできないと思うなあ。

ドットドットドットの意味が不穏なものじゃなくて、ディルクでも許さないっていう程度の意味だったら、あれっこの話成り立たないんじゃ…と今これを書きながら思いました。
……、ま、まあいいさね!

ジェイル→主人公の強い矢印は私の妄想の中にもあるんですが、その感情はカプ的なものではない…というか恋ではない…と思っています。大事で大事で、壊すことのできない守りたいもの、というか…うーん、うまく言えない!
2人があの関係を形成するのに、きっと過去に何かあったんだろうなあと思っているのですが、まだ具体的なところまでは妄想が追いついてません。でもたぶん、なんかあったに違いない…!!

09.2.4

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