カナリア*

君の隣に立てたなら

ラスの隣は戦いやすい。

一団を率いているというのだから、きっとかなりやるんだろうと思ってはいたけれど、実際に隣に立ってみると彼の腕は予想の遙か上をいった。少し荒削りな部分はあるけれど、とても速く強い一撃を放つ。そして彼は少しも怖れることなく前に出た。それはとても大きな安心感をもたらしてくれる。

何より、言葉がなくとも彼はこちらの動きに確かな結果で応えてくれた。アトリが右に出ればラスは左に走って敵の注意を引いてくれたし、逆にこちらが敵の攻勢を請け負えば彼は生まれた死角を突いた。望んだ位置で望んだように動いてくれることへの信頼感と手応え。ラスの戦闘のリズムはとても掴みやすくて合わせやすい。安心して死角も別サイドも任せられる。

大きな魔物を相手にしていて、不謹慎かもしれないけれど、楽しい、とアトリは思った。こんな風に戦えるなら、どんな難敵にも負ける気がしない。いくらでも戦える。

「アトリ!」

ラスの言葉と目に、剣を構え直す仕草に、呼ばれた意味を悟った。アトリも右足で踏ん張って剣を強く握り直す。見据えるのは自分たちより遙かに大きな魔物。けれど最初に目にしたときより、それはずっと小さく見えた。彼の隣で戦うとは、こういうことか。

「いっくぜえ!」

彼の言葉を合図に、ラスとアトリは同時に地を蹴った。魔物に向かって駆ける。速く、疾く。

剣をカチャリと返すタイミングも自然に揃った。斬り込む時だって、合わせるための逡巡は必要なかった。ただ心の突き動かすままに剣を振るえば、彼の信頼に信頼で返せば、それだけでいい。

剣を振り切ると、ふ、と音が凪いだ気がした。魔物は倒れる代わりに光に包まれ消えていく。それでようやく、対峙していたものが幻だったということを思い出した。斬った時の感覚も打たれた時の衝撃も、本物とまるで変わらない。ただ純粋にすごいと思った。自分でも驚くほどはしゃいだ声で賞賛すると、「だろ?」とラスは自分が作ったみたいに誇らしげに笑う。

楽しかったな、と思う。まだ少し動機が治まらない。ラスと共に戦えることは、こんなにも。

「君の仲間たちがちょっと羨ましいかな」

そう言ったら、ラスはそうかなあと首を傾げた。もし同じ世界に生まれていたらと、ありもしないことを考える。そうしたら、もしかしたら、本当に共に戦えたかもしれない。今の己の世界のことは気に入っているし、もう一度生まれ変わっても同じ場所にありたいと思うけれど、彼の隣に立てたらと、願う。

「……、オレだって、おまえの仲間が羨ましいぞ」

驚いてラスの顔を見つめると、彼はすっと手を差し出してきた。まるで握手を求めるように。アトリは迷うことなくそれを握った。強く力と心を込めて。握り返してきた彼の手は、うぬぼれかもしれないけれど、アトリと同じものを返してくれたような気がした。彼の手も、自分の手も、同じくらいに熱い。

「ありがとう、つきあってくれて。その剣は、君に」
「こちらこそありがとな!」

向かい合って手を握ったまま、真っ直ぐ視線を交わらせる。
にい、と彼は力強く笑った。

「負けんなよ」
「もちろん。君もね」

約束を交わし、二人は静かに手を離した。持ってきた剣がラスの腰に収まり、それは空色の鎧にとてもよく馴染んだ。途端に過去の情景と今が少し重なって、かすかに心が締め付けられる。

ごめんねとは言わなかったけれど、心の中で呟いた。ほんの少しだけ彼とあの人を重ねたことを、決して口に出しはしないけれど、剣を譲るとは言え自分のわがままに彼を付き合わせてしまった。

「ありがとう。それじゃあ、またね」
「おう!」

けれど、頼んでよかったと心から思う。たとえ実際に隣で剣を振るっているわけではなくとも、彼もまた別の空の下で戦っているのだと思えば、それは心に大きな力の光を灯してくれる。負けないような気になれる。たった一度の戦闘で、彼はそれだけのものを自分にくれた。

さあ自分の世界の問題も気合いを入れて片づけようと考えながら、アトリはトビラをくぐった。


渡したいもの依頼のイベントは、最後はこんな展開が待っていてもよかったと思うんです…!!
主人公だってきっとアトリの隣は戦いやすかっただろ!? 一緒に戦えたらいいと思ったろ!?
――と、いう妄想でした。

主人公とアトリの友情は、古きよき少年マンガ的な感じだったらいいなと思っています。限りなく熱いといい!

09.1.18

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