カナリア*

雨の日の過ごし方 4

他に可能性として考えたのは、すり抜けの札。しかし城の入り口に立っていた兵士達も誰も見ていないという。ルックやビッキーは当然風呂の外にいたし、テレポートもない。女風呂との壁は厚くて抜けられない。とくれば、他は何だ?
 
「どこ行ったんでしょうねー?」
「さっぱり分からん」
 
人が消えるはずはない。しかし、現実に彼ら2人はいなくなった。こちらを驚かせ返そうとしているならいっそ探すのを止めてやれと思ってみたのだが、いつまで経っても出てこない。諦めて姿を現すかと期待したが、丸一日経ってしまった。
 
 
 
 
外は雨。
いつまでも振り続ける、豪雨。
 
 
 
 
仲間達の間で「本当に“出た”んじゃないか」という噂も広がりつつあった。アンデッドは分かるにしても幽霊なんぞいるわけないと思うのだが、人形を片付けたあとも怖がって風呂場に寄りたがらない奴もいる。情けない。今日の深夜にまとめて風呂に放り込んでやろうかと半ば本気で考える。
 
「ミステリーだと何かトリックがあるんだけどね」
「まーな。ああ、じゃあもう一度設置してみるか?」
「そうですね。何か分かるかもしれませんし」
 
トリックを使って出たというのなら暴いてやろう。それに本当に幽霊というものがいるなら、雨は昨日の通りだ――むしろ激しくなったかもしれない――し、また出てくるかもしれない。やろうと言い出したのは自分だし、このまま黙って手をこまねいているのは精神的によろしくない。もし2人に何かあったのなら――
 
 
 
「リュウさんリュウさん」
「あ?」
「連帯責任」
「ですよ」
 
 
 
茶色と青色にそれぞれ見つめられ、リュウは吹き出して2人の頭と肩をそれぞれ叩いた。よしやるかと勢いよく立ち上がり、手分けして片付けたものをもう一度引き出しにかかる。2人を探すためだと言えばテツも反対はしなかった。天井の紐と人形の配置は大体覚えている。
 
ものの1時間もかければ、昨日と同じ風呂場が出来上がった。
 
 
 
「と作ってみたところで、トリックに使えそうなもんあるか?」
「うーん……通気口って通れないよね」
「排水溝も手ぐらいしか入りませんし」
「俺らが入ってくると同時に外へ出る、つーのも無理だわな。あれだけ人がいりゃ」
「変装とか?」
 
そういえばフリックの服もないんだったか。しかし変装に使うにしてもあの青は間違いなく目立つ。壁か何かにかかっていても気付かないはずがない。脱衣所の棚の裏ももう一度調べたが、女湯に抜けられる穴もない。
 
「やっぱり幽霊さんなんでしょうか?」
「いねえと思うけどなあ」
「でも、一応待ってみるかい」
 
どのみちトリックにしても考えなければならなかったので、3人は風呂場の戸を開けて脱衣所から眺めることにした。暇なので床に座り込み、赤い風呂場を眺める。
 
 
 
 
特に誰も話さなかったので、ざあざあと雨の音が響く。
ぴちゃんぴちゃんと湯の溢れる音が鼓膜を叩く。
ゆらゆらと人形が揺れ、湯気を受けて濡れていく。
 
 
 
 
ざあざあ。
 
 
 
 
ぴちゃんぴちゃん。
 
 
 
 
ざあざあざあ。
 
 
 
 
ぴちゃんぴちゃんぴちゃん――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ねえっ!」
「うお!?」「へっ!?」「――!」
 
 
突然背後から声をかけられ、3人は驚いて同時に振り返った。そこには黒髪の少女が楽しげな笑みを浮かべて立っていたのだが、
 
「不思議風呂って本当?」
ビッキーだった。
 
 
驚いて損したと思いながらそれぞれ息を吐く。ビッキーは風呂場を覗き込むと、わあすごいとはしゃいでいた。誰も入っていないとはいえここは一応男湯なのだが、彼女にとってそんなことはどうでもいいらしい。赤と黒と白の世界を見回して、怖いねと楽しげに言ってくれる。しかし最後に、彼女は首を傾げた。
 
「あれ、何か前に見たことあるような……」
「デジャヴじゃねーの?」
 
ビッキーの「見たことある気がする」は結構何度も聞いている。実際にテレポートで飛んで見たことがあるのかもしれないし、ただの気のせいなのかもしれない。しかしこんな企画を思いついた上に実行する奴がそうそういるとは思わなかったので、一応聞いてみる。
 
「お前昨日はここに飛んできたりしてないよな?」
「昨日はメグちゃんたちとずっとお喋りしてたからなあ」
「もっと前には? 来たことないかい」
「うーん」
 
ビッキーが首をひねる。しばらくそのまま悩んでいたが、突然「あ」と声を上げた。何か思い出したのかと思ったが、
 
 
 
 
 
 
 
「くしゅん!」
 
 
 
 
 
 
 
ただのくしゃみだった。しかしビッキーの場合はそれが鬼門なのだ。まずいと思った次の瞬間、世界が一転していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
      +
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どこだここはーーー!!!!」
 
何もこんな時にテレポートさせなくてもいいではないか。しかもよりによってリュウたち3人だけで。まだビッキーも一緒に来てくれれば帰りようがあるのだが、いない。3人オンリー瞬きの手鏡なし(サキが置いてきたらしい)。しかもテレポートさせられた先はどこか知らない部屋の中だった。
 
水色と白の格子模様が壁と天井一面に広がり、大小さまざまなドアが部屋のあちこちにある。家具も変わったものばかりだし、明らかに重力に逆らっていそうな斜めの形で止まっているものもある。何だここは。どこだここは。
 
「不思議の国のアリスみたいですね」
「そんなメルヘン望んでねえ」
 
だだっぴろい部屋だ。廊下らしき通路も長く、入り組んだ迷路のようになっていそうだった。出口は一体どこだろう。たくさんある扉のうち、どれかが出口かもしれないと都合のいいように考えてみるが、むしろ変なところに繋がっていそうな気もする。
 
「1個だけ開けてみるかい」
「……ものは試しっつーよな」
「じゃあこれ開けてみません? なんか可愛いですし」
 
サキが指し示したのは子供1人通れるかどうかという小さな扉だった。それなら変なところに繋がっていて引き込まれても、体をつっかえれば何とかなりそうだ。リュウが頷くと、サキはその扉の取っ手に手をかける。キイと音を立ててノブが回り、開こうとしたその瞬間。
 
「わああ待てそれは開けるな!!!」
「は?」
 
 
 
 
後ろから突然声がした。続いて着地音が3つ。しかも何だか、探していた声のようなそうでないような――? リュウが後ろを振り返ると、
 
「フリックにフォルス!? なんでここに!?」
「やっほう3人とも。そっちこそどうしたの?」
 
小さな少女の手を引いたフォルスと、何だか疲れた顔をしたフリックがそこに立っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
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